店舗出店戦略と売上予測のすすめ方 の商品レビュー
店舗立地戦略の立案方法と、その際の売上予測を如何に行えば良いかを、解説した本…と、(タイトルから)思いきや、戦略的観点には乏しく、「売上予測のノウハウを記述した本」、と言ったほうが、実態に近い。 店舗売上は個別要因の影響を大いに受ける(すなわち、一般的なモデルを構築しようとする...
店舗立地戦略の立案方法と、その際の売上予測を如何に行えば良いかを、解説した本…と、(タイトルから)思いきや、戦略的観点には乏しく、「売上予測のノウハウを記述した本」、と言ったほうが、実態に近い。 店舗売上は個別要因の影響を大いに受ける(すなわち、一般的なモデルを構築しようとすると、変数が膨大な数にのぼる)ため、データやその統計処理のみから売上を予測するのは甚だ困難であり、人間の五感を活かしたパターン認識力―すなわち主観―を活かすことが欠かせない、というスタンスは、事業数値の統計解析を扱ったことがある人間からすれば、大いに共感するところである。 そのため本書では、以下の5ステップによる売上予測を薦めている: 1.売上に影響を与える要素を、当事者のブレストによりまとめる 2.上記のうち、主観的なものを、質的変数として定義する 3.各質的変数の値を、既存店において評価する。評価する上では、どのような客観的状態(看板がどの程度視認できるか、など)が質的変数においてどの値に対応するのか、自然言語により予め記述しておくことで、一貫性を保つ。 4.上記の、既存店に関する質的変数に、商圏人口などの統計データを加えて、重回帰分析を行う 5.上記で得たモデルに、新規出店候補先の実査で得た変数値を代入し、売上の予測値を得る 店舗売上予測の方法としては、極めて妥当なところであろう。本書は、上記のような方法論のみならず、多くの店舗において重要となるであろう変数(看板の視認性、動線の有無、路面に対するセットバックなど)に関しても解説しており、本書を読めば、ひとまず売上予測を行う上での概念的道具立ては揃う。 惜しむらくは、冒頭でも述べたとおり、戦略的観点に乏しい点。本書の1/4程は、商圏設定からの出店戦略に費やされているが、本書を読まずとも論理的帰結として自明な事項が並んでいるだけである。これは、店舗運営という、極めて個別性が高い領域において、業種も限定せずに戦略を語ろうとすること自体に無理があるため、致し方ない面もあろう。が、ならばそもそも語ろうとしないほうが良い。 スタンダードな店舗売上予測の概要を、非常に手際よく学べる良書。「戦略」を意味もなく謳ってしまっているところを減点して、☆4つ。
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