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げっ子 の商品レビュー

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2018/11/11

私たちは“台湾文学”と安易に括ってこの作品を読むのだけは避けねばならない。 それは村上春樹作品をジャパネスクと括るのと同じく無意味だから。 同性愛(ホモセクシャル)を原因として高校を退学処分され父親から勘当された主人公。他にも、親や社会から疎外され、同性愛コミュニティに流れ着い...

私たちは“台湾文学”と安易に括ってこの作品を読むのだけは避けねばならない。 それは村上春樹作品をジャパネスクと括るのと同じく無意味だから。 同性愛(ホモセクシャル)を原因として高校を退学処分され父親から勘当された主人公。他にも、親や社会から疎外され、同性愛コミュニティに流れ着いた登場人物が物語の核をつくる。 親の顔を知らない者、虐待を受ける者、生まれながらに身体に障害を持つ者… 読んでいて気付いたのは、登場人物がそれぞれ持っている「不完全さ」だ。ここであえて不完全という言葉を使うことを許してほしいが、作者はあえて、各人物が様々な形で「不完全さ」を有していることを強調して描く。 しかしそれは、人間とは誰もが元々不完全なものであり、その痛みが、仲間や、尊敬に値する人生の先輩などに出会うといった過程を経て、不完全から完全へというのでなく、個々の人間の生き方として恢復する様を描こうとしているのがわかる。 また、同性愛という形で取り入れられた肉体的な描写を読み進めるうちに、作者がセクシャルなものよりもむしろエネルギッシュなものを求めていることがわかる。 「我々はみな、飢え、渇き、絶望した、それぞれのけだもののような手を伸ばし、互いに獰猛に引っつかみ合い、引っ掻き合い、引きちぎり合い、引き裂き合う。まるで、相手の肉体から償いとなるものをつかみ取ってこようとするかのように。」 冒頭で「台湾文学として特化した読み方はすべきでない」と書いたが、性的で肉欲的な表現手法ばかりが目につく日本の小説では、本書のように表現は性的でも、多層的で複眼的なニュアンスを含むものに出会うことは少ない。 やはり、台湾がもつ政治上の不安定さとそこからの進化への希求が台湾人の血肉にあったから、同性愛や私生児、障害などの要素に、台湾が抱える不安定さを隠喩的に反映させ、逆にそこにエネルギーを見出し、この作品として結実したのかとも考えている。 (2012/1/2)

Posted byブクログ