山躁賦 の商品レビュー
迷路、しかも靄のたちこめた中を徘徊するような感覚でした。もちろん快楽原則にそくした徘徊なのですが、それは不安を迫り出させる徘徊でもある。一種、ゲシュタルト崩壊をいざなう、この文体が、確固と属していた世界から離解させるような効果を持っているように思いました。かつ、ニヒリスティックな...
迷路、しかも靄のたちこめた中を徘徊するような感覚でした。もちろん快楽原則にそくした徘徊なのですが、それは不安を迫り出させる徘徊でもある。一種、ゲシュタルト崩壊をいざなう、この文体が、確固と属していた世界から離解させるような効果を持っているように思いました。かつ、ニヒリスティックな質感を湛えた視点により、二重の意味で不安定化するのだが、それが素晴らしい酩酊であるという、宜しき小説体験でした。そう、素晴らしいです。
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逆説について考えさせられる。死に極限まで迫ることで生を体感する。あるいは俗を極めることで聖にたどり着く……ここで書かれている文章はそうした逆説的な要素の結晶体/アマルガムのように思われる。ゆえに一面的/表層的に読めばごくありふれたバワースポットとしての山々の話のようにも映るが、そ...
逆説について考えさせられる。死に極限まで迫ることで生を体感する。あるいは俗を極めることで聖にたどり着く……ここで書かれている文章はそうした逆説的な要素の結晶体/アマルガムのように思われる。ゆえに一面的/表層的に読めばごくありふれたバワースポットとしての山々の話のようにも映るが、その内部には実に濃厚な世界の実相が潜んでいると見た。そして、この濃厚さはそのままこの作家の「狂い」を反映したもののようにも読める。静かに、だが激しく作家は書くことで狂気をドライブさせ、確実にこじらせていく。その迫力が確かに刻印される
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「山躁賦」(古井由吉)を読んだ。襟を正して向き合うべき文章を紡ぎ出す作家として私は先ず古井由吉氏を思い浮かべる。古典文学についての素養がない私にはこの作品群はかなり難解ではあったが、『杉を訪ねて』のエロティシズムと『花見る人に』のダイナミズムには体の奥深くから震えがきた。
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