死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら の商品レビュー
和歌山毒物カレー事件の被告として大阪拘置所に収監されている戦後11人目の女性死刑囚、林眞須美。彼女が収監以来の8年間に夫と息子、そして3人の娘と交わした書簡集。手にとったのは呑気なタイトルから福田和子的な自己愛を読みとったためだ。彼女の著作「涙の谷」は全篇をつらぬくだだ漏れのナル...
和歌山毒物カレー事件の被告として大阪拘置所に収監されている戦後11人目の女性死刑囚、林眞須美。彼女が収監以来の8年間に夫と息子、そして3人の娘と交わした書簡集。手にとったのは呑気なタイトルから福田和子的な自己愛を読みとったためだ。彼女の著作「涙の谷」は全篇をつらぬくだだ漏れのナルシシズムがすばらしかった。しかし、本をひらいてみると、福田とちがい林は文才に乏しい。なにを書くにしても表現があまりにつたなく、まるで中学生のようだ。そのせいで、どの手紙も近況を伝える以上のものにはなっておらず、それはこどもたちや夫もまたおなじだった。ということはつまり、読者は家族間のメモ書きを時系列にそって延々よまされるだけ。当然のことながらこれはひどく退屈だ。成人した娘が母親と距離を置こうとするくだりはちょっとスリリングだけれど、それも一瞬。死刑が確定しても家族の絆は強固でこわれる様子がない。機能不全家族でそだったわたしからすればうらやましいかぎり。(元)我が家とくらべてしばしぐったりする。ちなみに「シルエット・ロマンス」とは(ぐぐってはじめてしったが)サンリオがアメリカの出版社と契約し立ち上げた恋愛小説のレーベル、およびそのイメージソング。来生えつこ作詞、来生たかお作曲のムーディーな歌謡曲で、1981年に発売されたらしい。わたしもむかし聴いたことがある。ナルシスティックな林眞須美がこの曲を好むのはいかにもだとおもう。
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