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幕臣たちと技術立国 の商品レビュー

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2017/01/23
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2006年刊行。幕末期、幕府にて近代技術立国の礎ともいうべき存在となった3人の幕臣の道程を作家たる著者が描き出す人物評伝。それは、江川英龍、中島三郎助、榎本武揚。程度の差はあれ語学に通じ、海外事情に関心が高い共通点が挙げられようか。著者の関心が、幕末期は近代的な意義持つ点にあるようだが、江戸・明治の連続性を含め新しい問題意識ではなさげ。むしろ水野忠邦と阿部正弘の再検証が重要のよう。勿論、蛮社の獄を主導した鳥居燿蔵などの保守派(旧来の上下関係の維持、既得権重視)の存在が、幕府の限界だったことも本書で明快に。 江戸幕末の技術面での近代的な実像の部分はともかく、幕府官吏が大挙して明治政府や実業家として継承された事実は、本書からは伺えない以上、江戸幕末と明治との連続性という意味では舌足らずの感は残る。なお、蛮社の獄の経緯と帰結、水野忠邦の外交的識見はもう少し深めたい。

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2013/05/21

 本書は、「江川英龍・中島三郎助・榎本武揚」という3人の幕臣をテクノクラートという側面から取り上げたものである。  本書を読むと、幕末の徳川幕府とその幕臣達が全て無能だったというわけではなく、未来を見据えて奮闘した優秀な幕臣がいたことがよくわかる。  本書は、幕府が「開国」を主導...

 本書は、「江川英龍・中島三郎助・榎本武揚」という3人の幕臣をテクノクラートという側面から取り上げたものである。  本書を読むと、幕末の徳川幕府とその幕臣達が全て無能だったというわけではなく、未来を見据えて奮闘した優秀な幕臣がいたことがよくわかる。  本書は、幕府が「開国」を主導し、それに反対した反幕府勢力が権力を奪取後に「開国」へと邁進した幕末という分かりにくい時代を、立体的に読み取れる興味深い本であると思った。  そして、読んで面白いのだ。  しかし、著者は歴史家ではなくノンフィクション作家である。文章の上手さによる読みやすさもあるが、内容に小説のような「面白さ」へのバイアスがかかっていないだろうか。  本書の「あとがき」には本書は「歴史読み物」だとあるが、読後にもっとこの3人を知りたくなるような、ほとんど「研究書」に近い優れた「歴史読み物」であると思った。

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2012/02/05
  • ネタバレ

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小説なのか史実をまとめたものなのか、ジャンル訳が微妙。この3人は「技術屋」であり、政治家ではない。だからこそ、「開国」を普通に考えていたあたりが非常に興味深い。

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2010/10/14

技術革新に情熱を注いだ三人の幕臣たちの評伝。なかでも、江川英龍の功績が目を引く。志士に比べ幕臣たちの評価は不当に低いと言わざるを得ないのだが、江川もその一人。 彼はペリー来航の翌年に亡くなっているので、活躍時期は幕末ではなく江戸後期である。彼の足跡を追うことこそ、ペリー以前の「...

技術革新に情熱を注いだ三人の幕臣たちの評伝。なかでも、江川英龍の功績が目を引く。志士に比べ幕臣たちの評価は不当に低いと言わざるを得ないのだが、江川もその一人。 彼はペリー来航の翌年に亡くなっているので、活躍時期は幕末ではなく江戸後期である。彼の足跡を追うことこそ、ペリー以前の「夜明け前」に光を注ぐことにほかならない。 実際にはペリー以前にも外国船の来航は腐るほどあったわけで、その都度日本は揺れ動いていたわけだが、なんとなくそのままでいたところをペリーがガツンと挑んだわけである。タイミングの問題だけで、江川が主役に躍り出る可能性もあったのだ。 江川の凄さは、他の二人があくまでもペリー来航という「外側」からの衝撃によって生き方が決まったのに対し、「内側からの開国」を果たしたことによる。 むろん、当時の幕府が言われてるほど海外事情に無関心だったわけではないし、だからこそ江川はたびたび重用されたわけだが、その立場は保守派の子供じみた暗闘によって簡単に揺らぐものでもあった。そこらへんの様相は幕末とはぜんぜん違う。 そんな中でも信念を曲げなかった江川は本当に凄いと感嘆する。そして、その孤独感たるやいかばかりのものがあっただろうか。共鳴できる仲間との出会いが彼を形づくってきたわけだが、幕府内で彼の思想は完全には理解されなかっただろう。たとえ鳥居耀蔵という個人がいなかったとしても、幕府内には「鳥居的なもの」がはびこっていたわけである。伝え聞く海外事情と幕府内のギャップに絶望することはなかったのであろうか。 ということで、この本は生き方の本でもある。世の中が閉塞してても、人はよい出会いをすることでいくらでも「開国」できる。そして物事を正しく考えていれば、世の中はいずれ追いついてくる。江川の生き方に、今の日本人が学ぶところは大きいと思う。少なくとも私は江川に大きな勇気を与えられた。 さて、この本に書かれている以外にも江川は代官としていろいろとやっていたわけで、この薄い本に三人を押し込むのはさすがに食い足りない。なので星三つ。

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2010/04/20

幕末史のなかで、ほとんど取り上げられなかった先進的な技術系幕臣たちの知性と行動から幕末明治の本当の近代化の基礎がどこにあったかがあぶりだされている。 幕末史の新しい視点であり、これまであまりにもおろそかにされていた切り口だと思う。 「明治維新こそが、近代の「夜明け」であるとい...

幕末史のなかで、ほとんど取り上げられなかった先進的な技術系幕臣たちの知性と行動から幕末明治の本当の近代化の基礎がどこにあったかがあぶりだされている。 幕末史の新しい視点であり、これまであまりにもおろそかにされていた切り口だと思う。 「明治維新こそが、近代の「夜明け」であるという認識が一般の日本人にとってごくあたりまえの通念である。が、その通念が多くの日本人を大きく誤解させているのではないか。」 「明治維新が“夜明け”だとするなら、それ以前の時代には光はなかったのか」 「明治維新によって突然に、日本はそれまでの前近代から近代へと移行したのか」 「小説やテレビが繰り返し語るように、徳川幕府の体制は硬直化し、学問も技術も遅れ、ペリー来航までは、本当に海外からの情報も技術も開明的な考えも入ってくることはなかったのだろうか。」 このような疑問をずっと抱き続けてきた著者が、幕末期の3人の技術系幕臣を取り上げて、彼らの生涯と働きを検証することから、日本の近代化は幕末期の技術系官僚たちによって準備され、始まっていたことを証明していく、新しい視点の幕末研究本。 取り上げられている3人は、 技術に明るい先進的な行政官だった伊豆韮山代官・江川太郎左衛門英龍 浦賀奉行与力でペリー艦隊に最初に接触し、最後までサムライとして箱舘で討ち死にした中島三郎助、 オランダ留学で技術と国際法を学び、蝦夷地に独立共和国樹立を目指し敗れた榎本武揚 江川英龍の先進性は、以前読んだ「未完の多摩共和国」で思い知らされたが、ペリー来航以前から独自の海防論を持って、積極的に西洋式産業技術を導入して洋式銃や大砲を製造したり「反射炉」を築造したりしている。また、新しい知識や人脈のためにオープンな私塾も作っている。あのアームストロング砲を製造した佐賀藩の「反射炉」も江川英龍の図面と手ほどきで築造されたということは初耳だった。 同様に中島三郎助に関してもおどろくような実績が残っている。 浦賀与力時代に日本で最初に西洋式帆船を建造している。吉田松陰や桂小五郎は、そのころ中島三郎助に教えを請うている。桂小五郎などは、40日も三郎助宅に居候して、洋式帆船の建造を見学しているほど。その後、長崎海軍伝習所1期生となり、造船学、蒸気機関学、航海術などを修めている。中島はその優秀さで伝習所にもう1年残ってさらに高度な技術を修めることになり、勝海舟は習熟度が低かったため留年となったとの記録が残っているのだ。 榎本武揚についても彼が若い頃から晩年まで、第一級の技術者であり、明治維新では優秀な外務官僚だったことがわかる。 司馬遼太郎の小説が描く日本の夜明けに活躍する志士たちの話は、たしかに夢とロマンに満ちている。しかし、それだけを歴史だと信じるのはあまりに幼稚過ぎないだろうか。 たしかに、それが小説であることを認識して読んでいる人もいるだろうが、多くの一般人は司馬遼太郎の歴史小説を史実と取っているというのが現状。 そろそろ、司馬マジックから解き放たれ、ニュートラルな視点で幕末維新を見直してもいい時期なのだと思う。そのときの視点に、思想的な近代化ではなく、実質の近代化はどのようにして進められてきたかを置くのは興味深いやり方だと思う。 たしかに、薩長土肥が強引に夜明けの扉をこじ開けたが、その後の近代化の方法や技術、それに従事する人材をもたなかった。その基礎となるものは、幕末期に幕府によって育成された幕臣たちによって受け継がれ伝えられてきていたのだということが、具体的にわかる。 日本の近代化が速やかに進んだのは「江戸時代の蓄積」があったからで、新政府に近代性の蓄積があったわけではないのだ。 明治維新の建国の最中に倒幕の中心人物たちが2年近くも日本を離れてしまうという摩訶不思議な「岩倉使節団」というものがなぜ行われたのかということも、なんとなく見えてくるからおもしろい。 歴史は過去のものだが、普遍のものではない。その時代時代で、新しい見方や人物が掘り起こされるべきものだと思う。 小説家だが、最近の佐々木譲氏や中村彰彦氏の仕事は目が離せない。

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