カッティングルース(下) の商品レビュー
19世紀のアメリカ。親友であるナンス・クーパーを殺害した犯人を追って渡英したジャッキーことジャック・クロスのロンドンでの追跡劇と、ジャッキーの祖母クローデット、その息子マシュウ、ジャッキーの三代に渡る年代記が交互に語られるという形式。 顔も身元も解っている犯人を追うというもので、...
19世紀のアメリカ。親友であるナンス・クーパーを殺害した犯人を追って渡英したジャッキーことジャック・クロスのロンドンでの追跡劇と、ジャッキーの祖母クローデット、その息子マシュウ、ジャッキーの三代に渡る年代記が交互に語られるという形式。 顔も身元も解っている犯人を追うというもので、なんのつてもなくロンドンに向かう無謀さはともかくとして、劇場の花ルビーや親切な警官アーサーとの出会い、アメリカ人の芸人チームによる野球の試合など、読ませどころはあるものの、ロンドンでの追跡行よりは、クローデットの物語にぐいぐい引き込まれた。 身寄りのない孤児として競売にかけられたクローデット。主人となった男から読み書きを習い、男の死後は自分の力で生きていこうと外へ踏み出していくそのたくましさ。商売を興す才覚。息子であるマシュウへの愛の欠如の自覚と葛藤。それでも、息子が独り立ちできるようにするための親としての断固たる責任の取り方(この部分を読んで、我が身を反省)。それまでの埋め合わせをするが如くの、孫娘に対する溺愛。 焼死した両親への後悔の念、競売での屈辱。愛することも愛されることもできない自分への懐疑。それらの感情を抱えつつも、強く生きようとしたクローデットの人生は印象的。 孤児の売買、西部への労働力としての養子斡旋、プロ野球黎明期における選手の動きのあれこれ、バッファロー・ビルのウェスタンショー、鉄道の敷設等々、当時のアメリカの社会の一端が覗きみられるのが興味深い。 でもやっぱりリューインには、リーロイ・パウダーの新作を望みたいなぁ。 ――Cutting Loose by Michael Z. Lewin
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