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平壌25時 の商品レビュー

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2018/02/24

最近の外交官の脱北といえば、駐英北朝鮮大使館公使だった太永浩氏だが、同書は1991年に脱北したフランス語通訳の外交官が書いたもの。 北朝鮮の変化は著しく、情報源として専門書を読む際にはやはり「いつ出版されたのか」ということがある程度、重要な要素である。 しかし、すでに30年近く...

最近の外交官の脱北といえば、駐英北朝鮮大使館公使だった太永浩氏だが、同書は1991年に脱北したフランス語通訳の外交官が書いたもの。 北朝鮮の変化は著しく、情報源として専門書を読む際にはやはり「いつ出版されたのか」ということがある程度、重要な要素である。 しかし、すでに30年近く前に脱北した高氏のこの本は、「新しさ」はなくとも、「北朝鮮の本質」について書かれているものであり、現在においてもなお興味深い。 北朝鮮において外交官は、いまや憧れの職業である。 配給が途絶え、北朝鮮ウォンに対する信頼がない今、アメリカ、中国、日本のお金に接することのできる職業はとても魅力的なのである。 しかし、そんな職業について誰もうらやむことのない裕福な生活を送っていた著者も、北朝鮮のリアルと虚像をいやというほど目の当たりにして悩むことになる。 世界中から金日成が称賛されているかのように見せるために、お金をかけて「親北団体」を海外に作って金日成・金正日を讃える書簡を書いてもらう、アフリカの郊外に出かけて(酷く貧しい子どもたちを対象に)ただで北朝鮮の映画を上映して「○○国でわが国の映画上映会が開かれた」と国内向けに報道する、ストリートミュージシャンたちを(経費をすべて北朝鮮が負担して)北朝鮮に招待して「金日成・金正日を讃える歌を歌わせる・・・そういった「意味のない」仕事をさせられるのが北朝鮮の外交官たちなのである。 もちろん、お金を湯水のように使える国ならば問題はないのかもしれない。しかし、外交官たち自身が国に要求される奉納金のために危険を冒して海外で麻薬を売ったり、品物を転売したりなどしてお金を稼ぎ、その金を祖国に送っているのに、国は「自国を大きく見せるため」だけにその金を湯水のように使ってしまうのだ。そしてそれを間近で見ているのが外交官たちなのだ。 同書では、他国の大統領や幹部らが北朝鮮にやってきて、「金日成に直訴すればなんでもしてもらえる」とばかりに、自国の国会議事堂の建設や、競技場の建設を金日成に掛け合い、簡単に金日成が承諾するのをみて暗澹たる気分になっている外交官の姿が赤裸々に描かれいる。 また、北朝鮮が外国の人々から尊敬されていると印象づけるためだけの事業に無駄な金を使い、やりたくもない仕事をさせられる外交官らの姿も伝えている。 世界が北朝鮮を称賛しているかのように錯覚させるためだけに、屈辱的な・・・国際的に考えて「無礼な」仕事をせざるをえない北朝鮮の外交官たち。海外の情報に日常的に触れていながらも、北朝鮮の規律で自由を縛られ、上の人に目をつけられればひどい言いがかりで収容所にすら入れられてしまう可能性がある外交官たち・・・彼らの苦悩は、多分、著者が脱北して30年が経った今もさほど変わってないのではないか。そういう意味で非常に興味深い一冊である。

Posted byブクログ