吉本隆明が語る戦後55年(10) の商品レビュー
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吉本隆明といったって、よしもとばななの父さんであることくらいしか知らない。 詩人であり評論家であるそうだけど、いったい何の評論家なのかも知らないし。 10数年前にこの本を紹介してくれた人の本意がどこにあるのかも忘れちった。 「少年時代」についての鼎談と「心的現象」についての評論。 「心的現象」というのが一般的に通じる概念なのか、吉本隆明の本を読む人ならば常識として知っていることなのかはわからないけれど、私にとっては初めて聞く言葉。 幻覚や幻聴が精神的、心理的に人に与える影響、またはその逆ベクトルっていうことなのかな。 「心的現象」についての研究についてを、吉本隆明が論じるという形。 最初その構造がわからなくて、研究と著者の間にある距離に戸惑った。 構造がわかったところで論文そのものが難しいことに変わりはないけれど、精神状況によって幻覚の見え方が変わってくるというのは面白いと思った。 “僕らは、芥川は堀辰夫と似ているけれども、堀辰夫とは違う表現の仕方ができたのではないかと思えてならないんですね。それはひとくちに言うと、中野重治よりもプロレタリア的と言いましょうか、都市労働者的な世界を描いて、変なプロレタリア文学、クソリアリズムにならない方法を芥川という人は作れる可能性があったのではないかということです。” なるほど。 そんなこと考えたこともありませんでした。 プロレタリア文学っていうのはどうも、思想や観念が先に立ちすぎて苦手なんだけど、芥川の書くクソリアリズムにならないプロレタリア文学だったら読んでみたかったかも。 村上龍や山田詠美に関しても、作者にきちんとイデオロギーが出来てしまっているので、同じようなことを違う人相手に何回も繰り返すだけで、ちっともいい文体ではないし、いい小説でもないとばっさり。 “昆虫が糞を丸めてころがしたりしているのをファーブルは精密に観察しているわけですが、こういうおじいさんは日本人にはいないなという感じでした。日本人は役に立つことしかしない。” 牧野富太郎…。
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