『きけ わだつみのこえ』の戦後史 の商品レビュー
『きけわだつみのこえ』を編纂したわだつみ会を巡る歴史を追う本書。保阪氏の視点は独善を振りかざして、組織を自分の主義主張に利用しようとする人たちへの批判で貫かれている。会の原点でもあり、著作権収入などをもたらしたわだつみの遺族が会員にいるにもかかわらず、戦没学徒を「犬死」扱いしたり...
『きけわだつみのこえ』を編纂したわだつみ会を巡る歴史を追う本書。保阪氏の視点は独善を振りかざして、組織を自分の主義主張に利用しようとする人たちへの批判で貫かれている。会の原点でもあり、著作権収入などをもたらしたわだつみの遺族が会員にいるにもかかわらず、戦没学徒を「犬死」扱いしたり、戦後50年に近くなってくると、「加害責任がある」と指摘する始末。そうした会を嫌って、当初からの主要メンバーで理事長だった中村克郎氏は退会してしまう。中村氏を退会させるため、山下肇という東大名誉教授が送った公開質問状(東大医学部付属専門部を巡る差別的表現)などを見ると、保阪氏が暗然たる思いになるのも分かる。かくして、このような執行部では「岩波文庫」の新版もまともに校訂できるはずもなく、原典や遺族刊行の類書にも当たらず、間違いが多く含まれることになった。 保阪氏は「今新たな目で読んで分かることは「時流に流されたり」、「社会の動きをそのままあきらめて受け入れたり」してはいけないという教訓だ。戦没学徒たちは、あきらめまい、この現実を受け入れまいとしつつ、しかし日々、それが解体されていくなかに身を置かねばならなかった。それに抗することができなかった。戦没学徒の遺稿はすべてそのことを痛切に訴えているのではなかったか」
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『新版 きけわだつみのこえ』の読後に本書を読んだことを後悔した。 それは、第四次わだつみ会に印税の一端をもたらす不覚を犯してしまったからだ。 知っていたら買わずに借りただろう。 その一方で、このように醜悪な背後関係を知らないまま純粋に学徒の遺稿を(たとえそれが恣意的な選考と不都...
『新版 きけわだつみのこえ』の読後に本書を読んだことを後悔した。 それは、第四次わだつみ会に印税の一端をもたらす不覚を犯してしまったからだ。 知っていたら買わずに借りただろう。 その一方で、このように醜悪な背後関係を知らないまま純粋に学徒の遺稿を(たとえそれが恣意的な選考と不都合な部分の削除という編集権の濫用されたものであっても)読むことができて本当によかった、と安堵する思いもある。 『新版 きけわだつみのこえ』に付された注釈を読んで感じた強烈な違和感に理のあったこと、その理由を了解できたのもよかった。 ともかくも、学徒の遺志を、無関係の生者がこれ以上もてあそぶことは許されない。
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『きけわだつみのこえ』を初めて読んだのは中学生の時だったと 記憶する。その時手にしたのは東大新書版だった。 その後、しばらくして岩波文庫版を購入し何度か読み返した。 そして2年前に岩波文庫ワイド版を読み直し、改めて平和を維持する ことが、学徒兵のみならず戦争で失われた...
『きけわだつみのこえ』を初めて読んだのは中学生の時だったと 記憶する。その時手にしたのは東大新書版だった。 その後、しばらくして岩波文庫版を購入し何度か読み返した。 そして2年前に岩波文庫ワイド版を読み直し、改めて平和を維持する ことが、学徒兵のみならず戦争で失われた命を弔うことなのだろうと 感じた。 ある時期は爆発的に売れ、今でも入手可能な『きけわだつみのこえ』 は、戦後のロングセラーと言えるかもしれない。だが、その編纂過程で 恣意的な改ざんがあったとしたらどうだろう。 本書は『きけわだつみのこえ』が世に出た経緯から始まり、戦没学徒 の遺書・手記・日記等の収集・編集にあたった「わだつみ会(日本戦没 学生記念会)」の変容をつまびらかにしている。 人間が集まれば主義・主張の違いで揉め事が起こるのは必然的なの だろう。しかし、「戦没学生を追悼する」と言う当初の理念は大きく変質 し、亡くなった学生たちの残した言葉は政治的に利用されるようになる。 「わだつみ会」の変質と共に、当初会員に名を連ねていた遺族の多く が会を離れて行ったのは当然の結果か。だって、「わだつみ会」は途中 から「戦没学生は被害者であり、加害者でもある」との理論を展開し 始めたのだから。 そうして「決定版」と銘打った新版では意図的な改ざんが行われていた。 「わだつみ会」の内紛はともかくとして、遺された言葉が改ざんされてい たというのは正直、ショックだった。 編集と言う作業の過程では多かれ少なかれ作り手側の意図が入り込む。 だからと言って、原本にもあたらず、違った場所から言葉を持って来て 切り張りしていいはずはない。 これでは死者は2度殺されたことにならないか。読み手によって受け取り 方が異なるのは当然だが、作り手の側が読み手をどこかへ誘導しよう としているのがあからさまではないか。 『きけわだつみこえ』自体の貴重さは損なわれることはないのだが、遺さ れた言葉は書いた本人が思いもしなかったところで独り歩きしてしまう のだろうな。 本書を読み終わって「わだつみ会」のホームページを見て来たのだが、 ほとんど活動してないようだ。機関紙の発行も2012年以降更新されて いない。でも、会員募集は行ってるんだよね。現状、この会がどうなって いるのか不思議だ。
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戦没学生の遺稿集『きけわだつみのこえ』。 この戦後日本の文化的遺産が、編集主体である「日本戦没学生手記編集委員会(わだつみ会)」内部の政治的ゴタゴタにより、実は都合良くいたるところ削除・改ざんされているということを明らかにしたドキュメンタリー。 心ならずも国家のために命を...
戦没学生の遺稿集『きけわだつみのこえ』。 この戦後日本の文化的遺産が、編集主体である「日本戦没学生手記編集委員会(わだつみ会)」内部の政治的ゴタゴタにより、実は都合良くいたるところ削除・改ざんされているということを明らかにしたドキュメンタリー。 心ならずも国家のために命を捧げた青年たちの最期の言葉を政治的に利用するとは大変失礼である。わだつみ会は即刻原本のまま出版すべき。
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