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荷風全集(第12巻) の商品レビュー

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2024/01/01

 本巻には1916(大正5)年から1918(大正7)年の作品が収録されている。荷風37〜39歳。そろそろアラフォーの頃。  本巻はまず長編『腕くらべ』である。これは再読。ゾラのような客観描写で、登場人物も多い。花柳界での男女関係のなりゆきを描く。荷風は江戸時代の人情本を基礎におい...

 本巻には1916(大正5)年から1918(大正7)年の作品が収録されている。荷風37〜39歳。そろそろアラフォーの頃。  本巻はまず長編『腕くらべ』である。これは再読。ゾラのような客観描写で、登場人物も多い。花柳界での男女関係のなりゆきを描く。荷風は江戸時代の人情本を基礎において書いているのだが、むしろ荷風の小説はドライである。それはやはりゾラやモーパッサンなどフランス文学の影響ということになろうか。  本巻の小説はこの長編の他、随筆集『荷風雑稾』のおまけとして入った短編小説3編がある。これらの小品もなかなか味わいがある。  見事だと思うのは、小説での情景描写が、何とも美しく、その流麗さは確かに「音楽的」なのである。荷風の作品は何よりもこの美しい文章に価値があると思っている。  小説「四畳半襖の下張(一)」も入っているが、これは例の、荷風の「春本」(エロ小説)のはずだ。が、これはどうやらその出だし部分だけなのではないか。もっと続きがあって荷風はそれを秘蔵しており、それが後年、平井呈一青年によって勝手に持ち出され、荷風がすこぶる狼狽したのではなかったろうか。この全集はとにかく「初版主義」の編集方針で、私はこれを良く思わないのであるが、最初に世に出た形をそのまま採録しているため、タイトルが違っていたり、どうもおかしな点がたびたびある。  荷風は慶應義塾大を退任し雑誌「三田文学」からも手を引いた後、自由な趣味として新しい雑誌「文明」を発刊する。このときの「発刊の辞」が本巻に収録されているのだが、これがなかなか痛快だ。 「私は唯々気楽にこれから先早衰の晩年を送って行きたいのだ。・・・然しそれでは余り呑気過ぎて、このいそがしい世の中、お天道さまに済むまいと人に云われて、急に再び雑誌屋を始める事になったのである。  然し売れるの売れないのとそんな事で頭を悩ますのはもう懲り懲りである。・・・売って儲けたくば文学雑誌なぞを出すより春本でも書いた方がいい。  ・・・  三十二頁位の小冊子にして置けば一部も売れなくても差し支えはない。即ち全然世評を顧慮する必要のない純然たる文学雑誌たる事が出来る。  売るべき品物でないから広告する必要もない。・・・」  これくらい割り切ってやれれば楽しいだろう。荷風が経済的に心配のない身分だからこんなことをやっていられるのだが。  私的なことながら、今年秋にコンサートを主催しようとしており、そのことを思うとあれこれと気に病んで仕方がないのであるが、「集客したければヌードショーでもやればいいのだ」と捨て台詞でも吐いて、気楽な趣味ぐらいの気持ちになってみたいものだ。

Posted byブクログ