歌を恋うる歌 の商品レビュー
折口信夫に指示した著者が、1976年から89年にかけて雑誌に連載した、古代から現代にいたるまでの名歌をとりあげた本です。長年にわたる連載ということもあって、与謝野鉄幹に対する評価など、いくつかおなじ話題がくり返し採られていることもありますが、500を越える数の歌について著者自身の...
折口信夫に指示した著者が、1976年から89年にかけて雑誌に連載した、古代から現代にいたるまでの名歌をとりあげた本です。長年にわたる連載ということもあって、与謝野鉄幹に対する評価など、いくつかおなじ話題がくり返し採られていることもありますが、500を越える数の歌について著者自身の立場もまじえつつ、それぞれの歌の鑑賞のための手引きを読者に示しています。 冒頭のエッセイで、著者は「絵に「絵そらごと」があるように、歌にも「歌虚言」がある」と述べ、晩年の折口が著者に語った言葉を振り返りつつ、「雪を握りしめているような、はかない歌そらごと」について書き記すのだ、といいます。本文を読み進めていくと、桑原武夫の第二芸術論に触れている箇所で、「しかし、今になって考えてみると、あの第二芸術論から受けた衝撃と、その衝撃の中で感じた短歌への共感が、その後の私の心をささえてきたのである」と述べられており、「第二芸術論から受けた衝撃」が「歌そらごと」という美しい概念へと結晶化していく著者自身が歩んできた長年にわたるプロセスが、本書の鑑賞眼の底にあることがうかがわれます。
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