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火の柱 の商品レビュー

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2018/01/01
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※このレビューにはネタバレを含みます

非戦論の論者、労農派マルキストである木下尚江の初小説。 本書は小説という形態を取ってはいますが、作者自身に啓蒙色が強く、本作も政治色強い作品だという一般認知度が高い作品だと思います。 ただ、本書の登場人物、その思想と行動、生き様は文学作品として十分読める内容になっており、明治の政治経済に興味のない方にもおすすめできる一冊となっています。 なお、私は共産主義者ではないので、一般的な政治感をもった一般人から読む木下尚江の感想と受けてくれればと思います。 同朋新聞という新聞社の主筆、篠田長二と彼を取り巻く人々の日々を描いたものになっています。 彼は平等で道徳的で敬虔なキリスト教徒だが、非戦争論者であり労働者の地位向上を図っているため、軍隊や商社には邪険にされる存在です。 労働者を鼓舞し、神の愛を説く、そんな彼に想いを寄せる梅子というヒロインが登場します。その叶わぬ梅子の思いも本作の見所の一つとなっています。 彼女は紳商として世にしれたる父を持ち、親は軍人と結婚させただっているが、彼女自身は思いを胸に秘めたまま人生を神に委ねる選択をします。 そんな中、様々な逆風に背いて思いを伝えきるシーンは、感動的というとあまりに野暮ったく、本作が物語として完結するためには必要なシーンだったと思います。 ラストは単純にハッピーエンドとはならず、体制に陥れられ、無実の罪で投獄されるという終わり方になっているのですが、あの告白がなければ中途半端な内容になっていたのではと感じました。 なお、共産主義者側は篠田を中心として道徳的な人々ですが、対する資本主義者、戦争賛成論者勢は下劣で乱暴に書かれているフシがあり、アンフェアな部分があります。 それであっても篠田の振る舞いにはついていきたくなる強い魅力を感じました。 本作の連載が始まったのは日露戦争が始まる一ヶ月前の1904年1月。 戦争へ向けて国民の気運萃まる時期に木下尚江が書いた作品が人々に読まれて、労働者達による非戦論集会が超満員で開催されたというのは、今から思うと俄に信じられない話ですが、本書は露骨な思想書ではないため手に取りやすいため、盲目的に戦争賛歌を歌っていた層にも思いを伝えられたという意味で、筆者の企みは成功したといえると思います。 日露戦争直前の明治にも鉄砲で戦う以外の方法で戦う道を説き、後の世の平和を願った人々がいたという青写真という意味でも、本書は良書だと感じました。

Posted byブクログ