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三つの物語 の商品レビュー

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2022/01/09

日仏会館のイベント「ギュスターヴ・フロベール:歴史と社会に向けたまなざし―生誕200年に際して」に参加するにあたって、何か読んでおきたいと思い、手に取った。 イベントでも、司会の澤田直さんや講師の小倉孝誠さんが、初めてフロベールを読む人に薦める本としてこの本を挙げていたが、いきな...

日仏会館のイベント「ギュスターヴ・フロベール:歴史と社会に向けたまなざし―生誕200年に際して」に参加するにあたって、何か読んでおきたいと思い、手に取った。 イベントでも、司会の澤田直さんや講師の小倉孝誠さんが、初めてフロベールを読む人に薦める本としてこの本を挙げていたが、いきなり冒頭の短編「純な心」に痺れてしまった。 twitterのお題「短編を10作品選んで史上最高の短編集を作れ」に挙げるべき一作だ。/ 「純な心」:貧しい家に生まれ、幼い頃に両親を亡くし、結婚もせず、子ももうけず、一人の女中として生涯を終えたフェリシテ。 裏表紙には、【純粋であるがゆえに薄幸な人生を送らざるをえなかった一人の女を描いた「純な心」】とある。 だが、奥様の娘ヴィルジニーを愛し、甥っ子のヴィクトールを愛し、おうむのルルを愛した彼女の人生を、僕はむしろ「幸福」と呼びたいのだ。 あるいは、最後には愛するもの全てを失ってしまうこの人生こそが、美というものなのかも知れない。 ある日、フェリシテが可愛がっていたおうむのルルが居なくなってしまう。 【またあるとき、ロルモー夫人が日傘の先でからかったら、ルルは先端の石突きに噛みついた。そして、とうとうどこかへ行ってしまった。 フェリシテはルルを草の上において、外の空気を吸わせてやろうとしていた。ほんのちょっとその場を離れた。もどってみると、おうむの姿はなかった!フェリシテはまず、やぶのなか、川のほとり、それに屋根の上まで探した。 ー中略ー それから、ポン=レヴェックの庭という庭をくまなく調べてまわった。通りがかりの人を呼びとめては、かならず訊いてみた。「ひょっとして、うちのおうむを見かけませんでしたかね?」ルルを知らない人たちには、その姿かたちを話して聞かせた。ふと、水車小屋のうしろの丘のふもとに、緑色をしたものが飛びまわっているのを見たような気がした。だが、丘の上にはなにもいなかった。】 【フェリシテとルルはよく向かいあって話をした。おうむが、おはこの三つの文句を飽きもせずにまくしたてると、フェリシテはなんの脈絡もない、だが真心のこもった言葉で答えた。孤独な毎日を送るフェリシテにとって、ルルは息子であり、恋人であるといってよかった。おうむは指によじのぼったり、唇をかるくかんだり、肩掛けにかじりついたりした。フェリシテが乳母のように首を振りながら顔を寄せると、ボンネットの大きな縁とおうむの翼がいっしょにゆれた。】 何年か前に実家から居なくなってしまった外猫のクロのことを思い出して、身につまされてしまった。/ 「聖ジュリアン伝」:聖者になるとの予言にもかかわらず、少年期から鳥獣の殺生にうつつをぬかすジュリアン。 ついには、オイディプス王のように、もう一つの予言どおりに父母を殺めてしまう。 中盤までは、シリアルキラーの生育歴を読まされているようで、どこが「聖」なんだと、ひたすらおぞましかった。 だが、終盤、ジュリアンが我が身を悔いて苦しむ部分には、やはり身につまされるものがあった。 どうやらここにも後の死刑廃止論へと繋がる思想が流れているようだ。/ 「ヘロディア」:モローの絵画などで有名なサロメにまつわる物語。 持ち前の鈍感力が存分に発揮されたため、特に響くものはなかった。/ 先日、サルトルのフローベール論『家の馬鹿息子』の第5巻も出たことだし、あまりにも遅すぎる初読みとはいえ、このあたりでフロベールの作品が読めたのはよかった。/ 最後に脱線ですが、ようやく7作品まで決まった僕の「#短編を10作品選んで史上最高の短編集を作れ」は、今のところ次のとおりです。 残り三つの短編を探して、まだまだ旅は続きます。 ◯島崎藤村「ある女の生涯」 ◯ニコライ・ゴーゴリ「外套」 ◯深沢七郎「楢山節考」 ◯芥川龍之介「蜘蛛の糸」 ◯黒島伝治「橇」 ◯ギュスターヴ・フロベール「純な心」 ◯バルベー・ドールヴィイ「罪のなかの幸福」

Posted byブクログ