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去年を待ちながら の商品レビュー

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5件のお客様レビュー

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2020/02/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

西暦2055年、地球人類は《リリスター》と《リーグ》という二大勢力の星間戦争に巻き込まれ、前者陣営だが負け戦らしい。国連総長モールはリリスターをはぐらかすのに必死、WW2後半のムッソリーニの苦境がモデル。主人公は総長の主治医。彼のDV妻は「一回呑んだだけで中毒になる」JJ180(平均4ヶ月後には死に至る)を服用し、彼にも飲ませた。しかし彼はその副作用=タイムトラベルのうちに稀有なことに未来へスリップし‥なんとJJの解毒剤の化学式を持ち帰った‥。戦争のない過去、まだ結婚せず恋人同士であった過去には戻れないが 「平行世界の別の現実からピンピンしている代替の大統領(国連総長は事実上世界大統領)を連れてくる」というのは荒木飛呂彦『スティールボールラン』の元ネタではないか。ほか、印象的な「人間以上に人間臭いロボットタクシー」もディックの創始かもしれない。ほかの作品では「通行料を取る自動ドア」も出てきた。  Last Yearはもちろん「去年」だが最後の年の意味も込められているのかも、とふと思った。未来にトリップすればDV妻の悲惨な姿、戦争の結果、自分の死さえ見なければいけないかも知れない。“ファシスト”党の創始者で枢軸陣営ではあったがムッソリーニの労使協調路線はなかなかうまく行っていた。ディックも尊敬しているという。巻末の『自作解説』で『偶然世界』の自己評価が低いのが全作中ではあまり人気のない一因か。本作もそうだが、おしなべて長編群の結末はハッピーエンドとは思えず解釈が難しい。

Posted byブクログ

2015/08/21

夏のディック祭。ディックの作品に☆1を付けると、絶対的な信者から脅迫を受けそうだが、あえて1つ。 星間戦争中、なぜか地球代表の国連事務総長の主治医を任されたある医者が、妻が手に入れた時間跳躍ができるようになる非合法麻薬 JJ-180を使ってあっちこっちに飛び…という、テンヤワン...

夏のディック祭。ディックの作品に☆1を付けると、絶対的な信者から脅迫を受けそうだが、あえて1つ。 星間戦争中、なぜか地球代表の国連事務総長の主治医を任されたある医者が、妻が手に入れた時間跳躍ができるようになる非合法麻薬 JJ-180を使ってあっちこっちに飛び…という、テンヤワンヤ系のSF。 宇宙船、未来都市、星間戦争、タイムトラベル、パラレルワールド等、詰め込むものは詰め込みましたという作品だし、「アルファ・ケンタウリ」など、SFマニアは引っかからざるをえないキーワードも満載なのだが、とにかく読みにくい。 JJ-180が出てくるまでは、個人名のファーストネーム、ラストネーム、ニックネームなどがポンポン飛び交い、特に会話でほぼ名前だけというのには閉口する。 JJ-180以降は読みやすくはなるのだが、事務総長と会話している途中で、そこにいない人との会話が挟まったり、他人の病状について1ページ以上にわたって記載されたりと、訳以前に、原文の組み立てが今ひとつなのであろう。 タイムトラベルからパラレルワールドに入り込むあたりは面白いが、いかんせん詰め込みすぎて消化不良。訳者あとがきで、訳者自体よくわからなかったと記述しているが、訳もストーリーも最近読んだ中では一番ひどかった。 巻末に、解説代わりの資料でディック本人が代表作について述べており、本作は「『電気羊』と並んで良く書けた」と自画自賛しているが、どうなんだろ? 2回目に読んだら、登場人物の把握が先にできている分、印象が少しは変わりそうな作品だけど、もう一度読みたいかと言われると、ウーン…。

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2014/05/13

ディック先生のトリップ体験がふんだんに活かされている作品。エンタメというよりは深刻な感じだった。ダメ人間群像劇は、他の作品に求めることにします。 暗い閉塞感や、でも結局は妄想なんでしょ?な感じはさすが。エリック・スイートセント氏(主人公)の徒労っぷりには同情いたします。 本...

ディック先生のトリップ体験がふんだんに活かされている作品。エンタメというよりは深刻な感じだった。ダメ人間群像劇は、他の作品に求めることにします。 暗い閉塞感や、でも結局は妄想なんでしょ?な感じはさすが。エリック・スイートセント氏(主人公)の徒労っぷりには同情いたします。 本書にはおまけがついております。ディック先生が自作を語るコーナーです。読み応えがあって面白いです。個人的には、『タイタンのゲーム・プレーヤー』への評価がツボでした。去年、復刊したので読んでみましたが、何だかなあという感じでした。さて、先生ご自身の評価は...(苦笑)

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2013/01/24

いわゆるタイムスリップSFということになるが、そこはP.K.ディック。出口なしの戦争、命取りのドラッグ、絶望的な結婚生活という沈鬱な状況が、時間改変のトリックによって劇的に救われることはない。にもかかわらず、絶望的な状況でもがく人々は、なぜかほの暗い魅力を放つ。  主人公の医師エ...

いわゆるタイムスリップSFということになるが、そこはP.K.ディック。出口なしの戦争、命取りのドラッグ、絶望的な結婚生活という沈鬱な状況が、時間改変のトリックによって劇的に救われることはない。にもかかわらず、絶望的な状況でもがく人々は、なぜかほの暗い魅力を放つ。  主人公の医師エリックが生きているこの世界では、地球は、まちがった相手と同盟関係を結んでしまったがゆえに、泥沼の負け戦にひきずりこまれているうえ、同盟国によって事実上の植民地にされつつある。その指導者モリナーリは、ぶざまでみじめな、そしてしたたかで異様な魅力をもつ独裁者だ。肉体的にも精神的にも崩壊しかかっているように見えるこの男は、窮地から容易に逃れるすべはないことを知りつつ、自らの弱さそのものによって決定的敗北を避けつづけるという形で、なお闘っているのである。彼の主治医として、そしてドラッグ中毒の妻とトラブルをかかえる夫として、エリックはモリナーリの闘争をささえ、その方向づけすらすることになる。 時空を超えた戦術と過大な犠牲を払ったうえに、異なる未来を選ぶ可能性を示されてなお、ラストシーンを覆う空気は沈鬱である。ひとは自身の幸福をえらびとる機会があることを知りながらそれを掴み取ることもできず、ただ決定的な破局を先延ばしにしながら耐えるしかないのかもしれない。だがそれは、決してなすすべがないことを意味するわけでもないのである。コミットメントという言葉は、このような状況にこそふさわしいのかもしれない。ディックにしか書くことのできない傑作。

Posted byブクログ

2010/11/25

巻き込まれ型星間戦争、馬鹿馬鹿しい政治的圧力、人工臓器による無理な延命、時間感覚に干渉するドラッグ、道教の権威、火星上に再現された過去の地球の街、路地裏を走り回る小さな自律式機械群、そして奥さんに対する恐怖心(ここ一番重要)など、まさにディックワールドの集大成。

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