真実の合奏 の商品レビュー
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逮捕された容疑者は、その間に無罪が立証されない限り警察に48時間留置され、署内の代用監獄で最高23日間の取り調べを受けたのち、拘置所で裁判の判定確定を待つのである。 姉小路祐の「真実の合奏(アンサンブル)』はこの代用監獄を告発した作品である。 作者は1952年京都生まれ、大阪市立大学法学部卒。冤罪と闘う老弁護士・朝日岳之助シリーズや、新世界の代書屋を舞台にした「動く不動産」など社会派ミステリーを数多く手がけている。 『真実の合奏」は弟9回横溝正史賞の佳作入選作品。谷町筋にある雑居ビルで、深夜、金庫が破られ警備員が登山ナイフで殺害された。逮捕された容疑者は犯行を否認するが、容疑者には前科があり殺された警備員と大阪拘置所仲間であったこと、履いていたスニーカーが現場に残された足跡ター致したことで警察は容疑者を代用監獄にとどめて(法律上23日間が認められている)取り調べを続行し、遂に自白させる。 無罪を信じる容疑者の妹は朝日弁護士は調書の矛盾を突き、容疑者に有利な事実を次々と証萌していくのだが…。 有名な八海勝件や松川事件、最近では徳島ラジオ商事件や狭山事件など冤罪は必ずこのパターンで起こる。作者は代用覧獄こそ冤罪を冤罪を生み出す温床と作中でこう今書いている。 『逮捕された人間味長ければ23日間も同じ警察署の留置所に入れら・れて取り調べを受ける。自白の強制,や誘}導がなされても、警察署の取調室は密密であるから外敵からは分かりようがないぐ多くの留置所には冷暖房の設備はなくブトイレも自由に使えない。夜も電灯がつけっ放しで安眠が妨げられ、しかも板敷きの床に毛布が与えられるだけ。代用監獄の存在それ自体が一種の拷問なのである」 と向時にノ警察発表を鵜呑みにしたマスコミの報道姿勢が与える精神的な打撃についても言及している。 『逮捕にあたっては両手錠をかけられ,腰縄をつけられる。連行される警察署の前には報道陣が待機している。フラッシュをたかれテレビカメラに収められる。 この時点で容疑者はマスコミによって半ば犯人扱いされていると言ってよい。警察はそれを黙認している』 マスコミがセンセーショナルに煽り立てた残酷な犯人憧が容疑者に及ぼした心の傷は、裁判で無罪が確定してもいやされることはない。 作品は、最後にドンデン返しがあって終わるのだが、自白重視の裁判は冤罪を生み出すし。誰がいつ、冤罪で容疑者になるとも分からないこともまた事実なのだ。
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イメージ参照(http://blogs.dion.ne.jp/kentuku902/archives/1750126.html) 横溝正史賞佳作(1989/9回)
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