文学に現はれたる我が国民思想の研究 の商品レビュー
『文学に現はれたる我が国民思想の研究』のうち、「貴族文学の発達時代」「貴族文学の成熟時代」「貴族文学の沈滞時代」の三篇が収録されています。この著作は戦後、『文学に現はれたる国民思想の研究』と解題されて書きなおしがおこなわれましたが、本巻に収められているのは最初に刊行されたものです...
『文学に現はれたる我が国民思想の研究』のうち、「貴族文学の発達時代」「貴族文学の成熟時代」「貴族文学の沈滞時代」の三篇が収録されています。この著作は戦後、『文学に現はれたる国民思想の研究』と解題されて書きなおしがおこなわれましたが、本巻に収められているのは最初に刊行されたものです。 著者はいうまでもなく思想史研究の大家であり、とくに戦前において実証的な記紀神話批判をおこなったことで知られていますが、本書は主として文学作品を題材としながら、そこに「国民思想」がどの程度反映されているかということを批判的な立場から検討しています。日本においては、国民思想が十分な発達を遂げる前に中国の文化的影響を受けることになり、それが貴族層において形式的な側面においてのみ受容されたと著者は見ています。 現代の読者にとっては、著者の前提とする「国民思想」という枠組みに対する懐疑が見られないという点で限界をもっていたと評価されるのではないかと思われます。また、著者は平安文学を比較的高く評価し、その恋愛観に彼らの率直な心情が現われているとしながらも、近代的な倫理観にもとづく批評を差し挟んでおり、この点についても飽き足りないと感じられるのではないでしょうか。
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