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かも猟 の商品レビュー

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2021/12/01

ベルギーの田舍。 知恵遅れのヤニーと異父姉のアナ。ふたりの姉弟の母親といつからか住み着いたペートルという男。 風景はきわめて牧歌的であるが、一家は村から孤立気味であり、ひとりひとりがなにかしらの事情を抱えている。 母親とペートルは、沈黙のなかで育った憎悪の感情を詰め込み、アナは...

ベルギーの田舍。 知恵遅れのヤニーと異父姉のアナ。ふたりの姉弟の母親といつからか住み着いたペートルという男。 風景はきわめて牧歌的であるが、一家は村から孤立気味であり、ひとりひとりがなにかしらの事情を抱えている。 母親とペートルは、沈黙のなかで育った憎悪の感情を詰め込み、アナは身ごもったまま男に捨てられ、ヤニーは村の人たちに馬鹿にされる。 そこに現われたアメリカ駐留兵士ふたり。 かも猟に出かけた男たちの身に起こる悲劇とは。 この小説は、澁澤龍彦が東大の学生であった頃、小牧近江さんに本書の翻訳を勧められ、のちに小牧さんとの共訳として出版された。 澁澤にとっては若い頃に訳した思い出深い作品のひとつであろうが、本書は澁澤が亡くなる1月前、いや、たぶん、数週間前にあとがきを書いて、死後、王国社から刊行された書物である。 そもそも、本小説は、ユゴー・クラウスの19歳のときの作品であり、原作はフラマン語で書かれた。 それがフランス語に翻訳され、澁澤が和訳している。 自分とほとんど同年齢の若い作者の作品をフランス語を介して澁澤が訳したということだが、そのときの訳に最晩年を迎えている澁澤自身が改めて筆を入れたかどうかは書かれていない。 ベルギーの若い作家が描いたとは思えないような人間の深みに迫る秀作である。そしてもちろん、澁澤龍彦の名訳も光る。

Posted byブクログ