フローラ逍遥 の商品レビュー
「美しい」本だ。これは感じで美しいと書かねばならない本だ。手書きの挿絵も素晴らしい。 エッセイのテイストがよい。勝手な想像だが、鎌倉の古い家の書斎で窓を開け放ち、雑多ながらも季節季節の花が見える庭を見ながら、ウイスキーをちびりちびりやりながら、万年筆で原稿用紙にさらさらと書いて...
「美しい」本だ。これは感じで美しいと書かねばならない本だ。手書きの挿絵も素晴らしい。 エッセイのテイストがよい。勝手な想像だが、鎌倉の古い家の書斎で窓を開け放ち、雑多ながらも季節季節の花が見える庭を見ながら、ウイスキーをちびりちびりやりながら、万年筆で原稿用紙にさらさらと書いている、そんな感じがする。 25種類の花について書かれているが、それぞれは見開き2ページ程度に抑えられており、どの話題も洒脱でさっぱりとした文体。花の名の語源、原産地、海外(主にヨーロッパ)へ旅行したときの思い出、日本国内での思い出がちりばめられている微妙にその花や旅行に関わる挿話が面白い。 さらに面白いのが、たまにそこでなぜその結論?とうい展開が混じりこんでおり、読んでいてついおいおいと突っ込みを入れたくなるのがある。「なぜ流行歌には林檎が好まれるのか。そんなこと、私に分かるはずがない。」(林檎)、「菊の花が咲き乱れているのである」(菊)。さすがサド文学の大家である。 花の欧米名に対する造形が深く、その語源をしっかりと振り返っているが、守いつなのが対比して記載されている和名の考察だ。淑やかで古風な名称を気に入っていて、和名愛に満ちている。この満ちているというのは溢れているというよりも、濃くしっかりとしているといった雰囲気だ。旧字体で表された花名の説明は古風ではあるが、いまでも新鮮なみずみずしい表現を伴って説明されている。 梅の花の章では、物があざやかに白く光りかがやくさまとして「的皪(てきれき)」という言葉を紹介している。森鴎外、芥川龍之介のような漢語を駆使する作家の文章には多く現れるということだが、本書でよむと花の理解と相まってすっと理解できる。
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花にまつわるエッセイも楽しめたけど、25種類の花の挿絵(ボタニカルアート)が本当に素敵な本でした。一生の宝物です。
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ありふれた25種類の花を、澁澤の流麗な文章と美しい図版で紹介した本です。 花はすべて北鎌倉の自宅で彼が幼少より親しんできたものです。 図鑑的要素は図版にまかせて、澁澤流の「植物学」を展開していますす。 そこには用土の割合も施肥計画もありません。彼の自宅に咲く花が洋の東西と古...
ありふれた25種類の花を、澁澤の流麗な文章と美しい図版で紹介した本です。 花はすべて北鎌倉の自宅で彼が幼少より親しんできたものです。 図鑑的要素は図版にまかせて、澁澤流の「植物学」を展開していますす。 そこには用土の割合も施肥計画もありません。彼の自宅に咲く花が洋の東西と古今を問わず、世界とどういう関わりを持っているのかが記されています。 僕は小さいときから本と植物が好きでした。それぞれが独立した楽しみだったのですが、ある時にこの本に出会い楽しみの質が変わりました。 ちょっと例を挙げてみます。 「椿には香りがない」これは花が好きな人なら知っていても、「病弱な『椿姫』のマルグリット・ゴーディエが身につけることができたのも」そのためだったと書かれれば、未読の人(当時の僕)には興味がわく。 「むめ(梅)一りん一輪ほどのあたたかさ」と服部嵐雪の句を「梅」の項で紹介しているが、僕はここから俳句に登場する植物に興味を持ち、いつのまにか俳句好きになりました。 「苧環(おだまき)」の項では、オダマキのツルをアリアドネーの糸に見立て、三輪山伝説で有名なお三輪の繰る糸や、静御前が歌舞伎(外題は失念、すみません!)で歌う「しづやしづ しづの おだまき繰り返し…」と紹介。そして僕は歌舞伎に興味を持つ…。 挙げればきりがないですが、「蘭」にはユイスマンスやオスカー・ワイルド、「合歓(ねむ)」では三好達治と芭蕉に絡め、その他シュペルヴィエルや『聊斎志異』、尾形光琳も安吾も登場します! 澁澤龍彦の逍遙としたそぞろ歩きが、花に絡めて僕の世界を広げるきっかけとなりました。
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花、果実など植物に関するエッセイを25の章に分け、フルカラーの図版を挿入した澁澤晩年の美しい書物。 澁澤が取り上げている植物は以下の25種。 水仙、椿、梅、董、チューリップ、金雀児、桜、ライラック、アイリス、牡丹、朝顔、苧環、向日葵、葡萄、薔薇、時計草、紫陽花、百合、合歓、罌...
花、果実など植物に関するエッセイを25の章に分け、フルカラーの図版を挿入した澁澤晩年の美しい書物。 澁澤が取り上げている植物は以下の25種。 水仙、椿、梅、董、チューリップ、金雀児、桜、ライラック、アイリス、牡丹、朝顔、苧環、向日葵、葡萄、薔薇、時計草、紫陽花、百合、合歓、罌粟、クロッカス、コスモス、林檎、菊、蘭。 鎌倉の自宅の庭に咲く花から、幼少期に記憶、旅の思い出、 ギリシア神話、プリニウス、童謡、文学、美術、歴史など東西を問わず、澁澤の広く深い博学が何気なく散りばめられ、ドラコニアに咲く花は溢れんばかりです。 椿にはマルグリット・ゴーティエ、 董には芭蕉、 金雀児には、黄色に咲き乱れるジル・ド・レ領地の野原の夢想をジュネの文章で紹介し、 薔薇には、ルドゥテの絵を入れることを忘れない。 庭の土いじりもしたこともなく、草木を植えたのも数えるほどしかないという澁澤は、『太陽』という雑誌の連載として書いたこの植物のエッセイは、晩年、自らの癒しになり得ただろうか。 美しい書物である。 手元に置くべき書物である。
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澁澤作品の中でも最もお気に入りの一冊。特にアジサイの話が好きだ。地に落ちて枯れるのではなく、ドライフラワーのように枯れるといる記述に観察力が鋭いなあとしみじみ思った。
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綺麗な花々と共に、澁澤の随筆が読める素敵な本。装丁も綺麗。いつもの本棚の海を逍遥するかのような語り口(水仙とナルキッソス)に加えて、自分の庭の話や漢字の話などもしている。衒学趣味全開というよりは、少し落ち着いた感じかな?
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-貝原益軒はヒマワリの花を「もっとも下品なり」と一蹴したが、オスカー・ワイルドはこの花を胸にさして都大路を闊歩した- 文学と花を絡めた澁澤龍彦のエッセイ。この本はとにかく装丁が美しい。美本。著者の最後の作品でもあり、著者の細君が夫の本の中で好きな一冊だそう。
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花にまつわる古くからのお話などと神秘的なボタニカルアートが美しい一冊。ハードカバーが素敵。プレゼントにもよさそうです。
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