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尊属殺人罪が消えた日 の商品レビュー

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2022/04/03

「お前さえ我慢してくれれば、全ては丸く収まる。お前さえ狂人の父親の相手を務めておいてくれれば、それですべては済むんだ。平穏な日常に戻るんだ。」 こうして、全てはある一人の少女に押し付けられた。その少女を嚙ませ犬として、人は見て見ぬふりをして日常に舞い戻った。こうして少女は、父親の...

「お前さえ我慢してくれれば、全ては丸く収まる。お前さえ狂人の父親の相手を務めておいてくれれば、それですべては済むんだ。平穏な日常に戻るんだ。」 こうして、全てはある一人の少女に押し付けられた。その少女を嚙ませ犬として、人は見て見ぬふりをして日常に舞い戻った。こうして少女は、父親の性的相手役にされるという、人倫に悖る異常事態を生きざるを得なかった。 全編を読了して思ったのは、本ルポを執筆した女性弁護士が、本作中の担当弁護士をして執拗に抱かせたある疑問に対する不可解さだ。少女の担当弁護士は、接見当初からこう疑問に思ったのだという。「なぜ逃げなかったのか」と。 逃げられるわけがないだろう!とすかさず私は思った。四方八方ふさがりで、逃げられる可能性は万に一つも考えられない状況下にあって、それでもなお「なぜ逃げないのか」と問うその無神経さは、裏を返せば、逃げなかったお前が悪い、と豪語しているに等しい。そう、被害者もまたやられて仕方ない側面があったのだ。被害者のその態度が、近親相姦という異常事態をこんなにも長引かせた結果になったんだ。そうに違いない。などとうそぶくその物言いは、悲劇の本質から目を背ける態度に他ならない。 私は、その悲劇の本質から目をそむけたくない。少なくとも、「なぜ逃げなかったのか」と問うことに対する無神経さに敏感である点では、本悲劇に対して誠実であろうと欲するものである。 問うべきは、「なぜ逃げなかったのか」ではなく、なぜ彼女を取り巻く人々は、押しなべて彼女に背を向け、彼女から目をそむけ、何事もなかったかのように日常を送り続けられたのか、だ。彼女を逃げ出させず、その人生を15年間も奪わせたのは、ひとえにこの周辺の人々にある。逃げ出せば、世間に迷惑がかかる。この意識こそ、彼女を押しとどめた最大の理由だ。すなわち、日本社会の病理、世間様は絶対で、弱いお前は黙っておれ! 黙って噛ませ犬を務めていろ!と有無を言わさず強いるこの病理こそが、悲劇の最大の元凶である。

Posted byブクログ

2013/08/29

高裁判決に悪意を感じる。裁判官とはいえやっぱりその人の信条とか考え方に左右されて完全に中立って訳でもないんだろうな。 非嫡出子の相続の14条違反に関しても今最高裁の動きが注目されているけど、時代の流れに応じて見直されるべきだと思う。

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2014/01/11

おそらく法曹関係者だったら誰でも知っているだろう、尊属殺人が違憲とされるきっかけをつくった事件。 本当に非道い事件だし、殺されて当然だし、読んでいてつらいです。 ただ、全員が「なぜ逃げなかったのか」という問いを彼女にぶつけていて、それはないだろう、と思います。 「なぜ逃げなか...

おそらく法曹関係者だったら誰でも知っているだろう、尊属殺人が違憲とされるきっかけをつくった事件。 本当に非道い事件だし、殺されて当然だし、読んでいてつらいです。 ただ、全員が「なぜ逃げなかったのか」という問いを彼女にぶつけていて、それはないだろう、と思います。 「なぜ逃げなかったのか」ではなく、「なぜ誰も助けられなかったのか」だろう。 今だったら、母親や親戚が何もできなかった時点で行政介入とかができると思うけど、この時代にはそれもできなかったんだろう……。 2審の判決は非道すぎる。

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2009/10/04

前々から関心のあった事件だったので、大学の図書館で見つけたときはうれしかった。 これは起こるべくして起こった事件だと感じた。だけど、なんだか最後までしっくり来ない。

Posted byブクログ

2014/09/23

尊属規定を廃止するきっかけとなった事件のノンフィクション。 父親から性的虐待を受け続けた娘がついに父親を殺した。 当時存在していた尊属規定にのっとると、有罪になれば執行猶予がつかない重い罰が下る。 そして殺したことは事実だから有罪になるのは確実。 殺さなきゃ逃げられないくらい...

尊属規定を廃止するきっかけとなった事件のノンフィクション。 父親から性的虐待を受け続けた娘がついに父親を殺した。 当時存在していた尊属規定にのっとると、有罪になれば執行猶予がつかない重い罰が下る。 そして殺したことは事実だから有罪になるのは確実。 殺さなきゃ逃げられないくらい追い詰められた状況での殺人だけど、それを汲む量刑は出せない。 すべての親が正しいとか優しいとは限らないのだから、そもそも尊属規定がおかしいんじゃないの?という方向で裁判を闘った。 この本は20年前に書かれたってとこに意義がある。 終章が慧眼。 なんかもう、なにもかもがひどい。ひどすぎる。誰も助けてくれない。 明らかに被害者(被告)の味方である弁護士や著者ですらなんか見方が違うもの。今の「常識」と。 レイプされたことも子供を産んだことも親を殺したことも、全部被害者が悪いんじゃないかという認識をぬぐいきれていない。 当時の「常識」に強固に支配されているから、この人は何も悪くないときっぱり言いきれる人がいない。 それがつらい。 女だから変わってしまう評価、逃げなかったのは逃げる気がなかったからじゃないの?というセカンドレイプ、合憲派のものいいまで十年一日どころじゃなく未だに似たようなことを言うやつがいるのがやりきれない。 「道徳」を振りかざして人を貶める奴は大抵「道徳的」じゃない。

Posted byブクログ