人間通でなければ生きられない の商品レビュー
戦後の日本では、マルクス主義者が幅を利かせ、公式主義の立場から日本の遅れを声高に批判してきました。とくに、資本主義が真の人間性を疎外するという人間疎外論は、あたかもあらゆる現実の制度に対して批判をおこなうことを可能にしたかのような様相を人びとに見せることになりました。 これに対...
戦後の日本では、マルクス主義者が幅を利かせ、公式主義の立場から日本の遅れを声高に批判してきました。とくに、資本主義が真の人間性を疎外するという人間疎外論は、あたかもあらゆる現実の制度に対して批判をおこなうことを可能にしたかのような様相を人びとに見せることになりました。 これに対して著者は、どのような社会でもすべての人間の精神の鬱屈を完全に晴らすことなど不可能だと考えます。マルクス主義者たちは、公式や理想を振りかざして現実を批判しますが、彼らの公式や理想で複雑な現実を割り切ることはできません。むしろ、現実の人間から乖離した公式や理想が、現実の人間を疎外しているのではないかと、著者は逆ねじをくらわせています。 ほんとうに必要なのは、現実の人間からかけ離れた理想や公式などではなく、現実の社会のなかで苦闘する人間を見据えて、そこから実践的な知恵をつくりあげていくことだと著者は考えます。そうした知恵をもつ思想家として、本書では大宅壮一、梅棹忠夫、司馬遼太郎、高橋亀吉、山本七平の五人がとりあげられ、彼らの仕事の内容が解説されています。 最終章では、伊藤仁斎の『童子問』の中から、「人間通」になるための指針になるような文章を選び出し、解説が加えられています。
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