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黄金座の物語 の商品レビュー

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2013/03/11

ウディ・アレンの「カイロの紫の薔薇」をはじめ、映画好きなら、自分が映画の世界に入っていけたらという想像をしない者はいないだろう。この作品もまた、そうした映画好きの見た長い夢なのかもしれない。役所に勤める私は独身で、趣味はビデオで映画を見ることと居酒屋で一人酒を飲むことぐらい。五月...

ウディ・アレンの「カイロの紫の薔薇」をはじめ、映画好きなら、自分が映画の世界に入っていけたらという想像をしない者はいないだろう。この作品もまた、そうした映画好きの見た長い夢なのかもしれない。役所に勤める私は独身で、趣味はビデオで映画を見ることと居酒屋で一人酒を飲むことぐらい。五月のある日、たまたま渡った橋の向こうに見知らぬ町を見つけ、さびれた映画館に入ると、清水宏監督の『歌女おぼえ書』という聞いたこともない映画がかかっていた。映画に不思議な感動を覚えた私は、映画館を出た足で、近くの「銀月」という居酒屋に入る。カウンターに座っていた笠智衆そっくりの初老の紳士と今見てきた映画の話をするうちにすっかりうちとけてしまい、月に一度はこの町を訪れ、映画を見、居酒屋で飲むのを心待ちにするようになる。紳士には原節子そっくりの娘がいて居酒屋の大将は加藤大介に似ている。私と奇妙な友情で結ばれることになる孤児あがりのキャバレーの用心棒、松永は三船だし、その松永を気にかけるバーのマスターは中村伸郎とくれば、これは作者が、自分好みの各社のスターをキャスティングして作った紙上の映画だと知れる。町の再開発に絡む地回りとの抗争や原節子をめぐる男達の片思いを絡ませながら、月ごとに変わる黄金時代の日本映画を、大将が出す旬の酒肴とともに紹介していくという趣向は気が利いている。19本の最後の映画が『晩春』だと聞けば、話の結末はいわなくても映画好きなら先刻承知だろう。原節子似の娘が結婚するのをきっかけに、黄金町の住人たちは散り散りばらばらになり、私も所帯を持つところで終わっている。昭和初期の日本・映画を懐かしい思いで振り返ることのできる人にお勧めしたい「一本」である。

Posted byブクログ