S&Gグレイテスト・ヒッツ+1 の商品レビュー
フォーク・デュオのサイモン&ガーファンクルの曲名をタイトルにした短編小説15編を収録しています。 第1話は、サイモン&ガーファンクルの代表曲である「ミセス・ロビンソン」ですが、ここに登場するミセス・ロビンソンは、草深い信州の高校を出て東京にやってきて、文房具屋の息子と結婚した3...
フォーク・デュオのサイモン&ガーファンクルの曲名をタイトルにした短編小説15編を収録しています。 第1話は、サイモン&ガーファンクルの代表曲である「ミセス・ロビンソン」ですが、ここに登場するミセス・ロビンソンは、草深い信州の高校を出て東京にやってきて、文房具屋の息子と結婚した39歳の女性です。日本の近代史が前近代から引きずっている「土着」を体現している彼女の半生を、エッセイのような語り口で簡単に述べたにすぎませんが、著者の日本近現代史に対する関心のありかを示しています。 「ボクサー」は、暗い思春期を送っている少年の物語です。過酷な受験競争のプレッシャーから家族を殺害するにいたった少年が登場し、社会を震撼させた事件を背景としているのかもしれませんが、やはり戦後日本の家族像に対する著者の視線が見られるように思います。「7時のニュース/きよしこの夜」も同様のテーマをあつかっています。 「スカボロー・フェア/詠唱」は、19歳の大学生である「僕」と、31歳の相原かをるという女性の物語です。著者はエッセイなどを通して、「男」や「女」といった仮面をつけて世間を生きる人びとの心の奥底にひそんでいる、そのような仮面をつけていればいいのだろうという甘えを厳しく糾弾しますが、本作も同様のねらいをもつ作品といえるように思います。ただし、世間へ向けての仮面の裏側にまわって、仮面をつけていることに安住している人間の心理をえがき出すために、小説としては説明過剰に感じられるところもあります。 「コンドルは飛んで行く」は、ホモ・セクシャルの少年の一人称語りのかたちで、同様のテーマをあつかった作品だといえるように思いますが、こちらは説明の過剰さを感じません。彼は同性愛者であるがゆえに、仮面の裏側へまわって心理を解釈するような視点に、いわば構造的に立たされることになっているためなのかもしれません。
Posted by
- 1