尾崎翠 の商品レビュー
尾崎翠は生涯引き裂かれた内面を持ち続けたのだと、私は思う。彼女の執筆への断念を、薬を飲み、神経を痛めつけてまでも書き続けた苦しみから開放されて、ほっとしたのでは、と思う気持ちもある。しかし、尾崎翠は「書くこと」と「生きること」との間の亀裂を、生きることを選ぶことによって解消したの...
尾崎翠は生涯引き裂かれた内面を持ち続けたのだと、私は思う。彼女の執筆への断念を、薬を飲み、神経を痛めつけてまでも書き続けた苦しみから開放されて、ほっとしたのでは、と思う気持ちもある。しかし、尾崎翠は「書くこと」と「生きること」との間の亀裂を、生きることを選ぶことによって解消したのではなかった、と思う。それは、一度その深い淵を見てしまった者の内面に生じた分裂は、どちらかを選ぶことによって解消されるというものではないからだ。そして創作こそがその断絶を垣間みさせると同時に、唯一超えていくことのできる道だからだと思う。(あとがき)
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