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料理心得帳 の商品レビュー

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2024/10/23

茶懐石「辻留」二代目主人である著者が、料理にかんするさまざまな所感をつづったエッセイです。 とくに前半には、俳句を織り込みながら「食」の歓びを語り、道元の「典座教訓」に言及しながら「道」としての料理のありかたを述べるなど、エッセイとしてすぐれた内容の文章が多く収録されています。...

茶懐石「辻留」二代目主人である著者が、料理にかんするさまざまな所感をつづったエッセイです。 とくに前半には、俳句を織り込みながら「食」の歓びを語り、道元の「典座教訓」に言及しながら「道」としての料理のありかたを述べるなど、エッセイとしてすぐれた内容の文章が多く収録されています。著者の日本語の美しさも印象的です。 ただ、わたくしにとって本書に書かれているような「食」とのつきあいかたは、やや高尚にすぎると感じてしまったのもじじつです。有元葉子の料理にかんするエッセイを読んだときのように、そこで提唱されているライフ・スタイルにあこがれるというスタンスで読むことはできなかったのですが、あくまでエッセイとして文章の妙味をあじわうことのたのしみはじゅうぶんに得られたように思います。

Posted byブクログ

2010/07/26

食べることと食べてもらうこと。この決定的な違いのはざまで、両者に通じているのは、技巧に心奪われることなく心を込めて、1年心待ちにした味わいを大切にすること。そんな精神的な空間から、食を通じて、季節感や、作り手と食べ手の心のありよう、様々な気づきが共有される歓び。 心を力説する中...

食べることと食べてもらうこと。この決定的な違いのはざまで、両者に通じているのは、技巧に心奪われることなく心を込めて、1年心待ちにした味わいを大切にすること。そんな精神的な空間から、食を通じて、季節感や、作り手と食べ手の心のありよう、様々な気づきが共有される歓び。 心を力説する中身は、目利き、下ごしらえ、味加減、器の選択など、こまかな手順の積み上げに心が表れることの意味であり、決して精神論ではない。むしろ、旬を、お茶濁しの常套句とせず、人工的な食を徹底的に拒絶しつつ、“1年心待ちにした”その季節のその瞬間にしかない食材から生み出す、という意思こそが、強い精神性として感受される。 それは、これが著された60年代から70年代、もう半世紀も昔の時代にあって、すでに旬が脅かされる危機が準備されていたことを物語るのだと思う。今に至る大きな変化を、著者は痛切に感じ取っていたからに他ならないのだと思う。 1年心待ちにした味わいという言葉は、痛切だ。良い加減という字義がいいかげんに代わり、旬は、心待たずして作り手とマスコミが、オオカミ少年よろしく365日騒ぎ立てる現代。僕らが想像力を駆使して、改めて緊張しなければと思うことは、明治生まれの氏が訴えた危機は、その当時までの具体的な記憶に基づいているということだ。現代において、その記憶にある食材や調理技術のおおかたが、すでに再現不能な可能性が高いということだ。 そんな現状であきらめ、弛緩していくか、与えられる限りの緊張を呼び戻そうとするかも、僕らの想像力にかかっているということだ。

Posted byブクログ