ヴォーヌ=ロマネの伝説 アンリ・ジャイエのワイン造り の商品レビュー
「ワインはあらゆる感覚を刺激することによって、人を感動させ、魅了し、恍惚とさせてくれる。これがワインの使命なのだよ。」(アンリ・ジャイエ) ブルゴーニュワインの伝説の神様降臨! 著者はこの本の主人公であるアンリ・ジャイエの親友で、精神分析医であり文学や哲学、ワインにも造詣が深...
「ワインはあらゆる感覚を刺激することによって、人を感動させ、魅了し、恍惚とさせてくれる。これがワインの使命なのだよ。」(アンリ・ジャイエ) ブルゴーニュワインの伝説の神様降臨! 著者はこの本の主人公であるアンリ・ジャイエの親友で、精神分析医であり文学や哲学、ワインにも造詣が深いということです。それだけに文章のそこかしこに、ほとばしるジャイエのワインにかける情熱がひしひしとこちらに伝わってくるかのようでした。 この本では基本はジャイエへのインタビューにもとづいた記載になっているのですが、ときおり著者のフォロー内容も交ざっていてどちらの見解なのか迷う部分もあるのですが(笑)、ジャイエが語るブルゴーニュワイン全体の讃歌、そしてピノ・ノワール愛と相俟って両者のブルゴーニュワイン愛が強く伝わってくる内容になっています。 「ピノ・ノワールは、世界一表現力の豊かなワインなんだ。コクがあるが果実実も豊富。エレガンスにあふれ、みんなが楽しめるワインを生み出してくれる。」 このインタビュー時点の1997年はアンリ・ジャイエが引退し9年後のことで、販売ベースでいけば甥のエマニュエル・ルジェとの共同で1995年まで作っていたものも年金受給の関係でそれもできなくなった2年後のことでしたが、その気力・知力は全く衰えを知らないように充実感に溢れています。 結局、2001年まで彼の代名詞であるクロ・パラントゥについては自宅用ということで80ケースのみ作ることを年金局に許してもらっていたということですが、2004年の再インタビューでもまだまだお元気そうだったので何とももったいない話ですね。 ちなみに1997年のインタビューではクロ・パラの販売価格は500ドルと書いてあって、2004年の再インタビューでは1250ユーロくらいと書いてあって、うぬぬぬ、1ケースくらい買っておけば今ごろは…。(←意地汚い根性) この本ではアンリ・ジャイエ自身が自分のワイン作りの過程について存分に記載されているところが大きな魅力になっています。 かつてブルゴーニュワインは多産で名前だけでもある程度売れていた時代、彼はその流れに逆らい、革新的な手法で高品質のワイン作りを追求し続けたある意味、求道者であり、思想家であり、また革命者であり、天才肌の職人であったと言えます。 「ワインにはテロワールと同じぐらいに造り手の人柄が映し出される。」 テロワール、そしてクリマを尊重し、ヴィンテージの特長を深く考え個性を引き出し、最後に造り手がそれに向けて努力するという三位一体の考え。 造り手としては、栽培アプローチではマッサル選抜によるぶどう木選び、水や肥料を極力やらず根を地中深く根付かせることにより土地の複雑味を引き出し、徹底的な剪定と撰果による果実の小ぶり化と低収量、ミルランダージュ、そして自然な耕作法、醸造アプローチでは選果台での徹底的な品質確保と果梗除去、低温マセレーション、ルモンタージュ、亜硝酸添加量の極小化、そしてドメーヌ本詰めといった具合に誰もが行わなかった数々の手法を駆使して圧倒的に甘美で魅惑にあふれ、しかもタンニンとアルコールと酸の絶妙なバランスによる長期保存(50年くらい)というワインを生み出す、まさに「神の手」だったといっても良いでしょう。 また、彼が伝説の神様となったもうひとつの要素としては、彼が後進の育成に力を注いできたことであるとも言えます。 本書には現在のブルゴーニュワインのきら星のごとくのスターたちとの会話や交流が載せられています。 アンヌ・グロ、ドニ・モルテ、クリストファー・ルーミエ、フィリップ・シャルロパン、フランソワ・フェヴレイ、ブリュノ・クレールなどなど、そして巻末にはちょこっと仲田晃司さんも。 彼は自分の考えを押し付けることなく、また新技術も良いと思ったら考えを変えることを厭わず、訪問者には気さくに接し、ただその思想は情熱的に伝播するという彼の人柄が好かれたのかもしれませんね。 この本を読んで、それなりのテロワールを得たら、アンリ・ジャイエ並みのワインを作れるかというと…、やはりそれは無理なんでしょうね。(笑) AOCブルゴーニュでもいいので、1度彼のワインを飲んでみたいなあ。 安値でどこかに埋もれていないかなあ。(←意地汚い根性)
Posted by
- 1