日ソ戦争への道 の商品レビュー
第二次大戦期の日ソ間の外交史を、90年代以降の新資料を踏まえて総括した本。凄い大著で序章だけで100ページを超える。ハル・ノートKGB作成説といった陰謀論に対する反証にいたるまで、きめ細かい配慮が素晴らしい。ロシア側の未公開資料への発掘に始まり、アメリカの公文書館での活動、日本側...
第二次大戦期の日ソ間の外交史を、90年代以降の新資料を踏まえて総括した本。凄い大著で序章だけで100ページを超える。ハル・ノートKGB作成説といった陰謀論に対する反証にいたるまで、きめ細かい配慮が素晴らしい。ロシア側の未公開資料への発掘に始まり、アメリカの公文書館での活動、日本側の膨大な資料の読み込みと、フィールドワーカーとしてのの著者に圧倒される。ボリュームの豊富さからも百科的な使用が適切な本。 枝葉の部分になるのだが、興味深かった事について。 本書を読む限り、著者は、歴史的公平性を若干逸脱してまでも、日本に対して好感を持っているようだ。好感は旧体制(大日本帝国)にまで及ぶ。靖国に参拝までしている。逆にアメリカに対しては否定的で、旧ソ連の体制には批判的である。 以下は印象論になるが。 90年代以降のロシアの知識人(学者や作家や映画監督)の書いた物やインタビュー等を読むと、日本への好感情が多く見られて驚くことがある。もちろん日本語に翻訳されたものを読んでいるので、割り引かないといけないんだが。 それでも、そこで見られる好感情や歴史観は、90年代以降のロシアのインテリが持つ典型例の一つではないかと思う。 抑圧されてきた旧ソ連体制への批判と、つい先日まで敵国であったアメリカへの否定的感情が、ロシアとアメリカが戦った大日本帝国への好感情を生み、(アメリカの)資本主義を受け入れたロシアの現体制と戦後の日本とをパラレルに看做すことで、日本の現体制へ感情移入する。 例えば、先年に日本でも公開された、ソクーロフの映画『太陽』を見た時、日本に対して異常に好意的で、アメリカに対して否定的であることに驚いのだが、上記の歴史観を考えると納得できなくもない。 もちろん、ロシア人が示すこういった好感情を、日本の旧体制を正当化する思想の根拠として使用することに危険であることは言うまでもないが。
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