夢想の研究 の商品レビュー
ミステリーやSFなど…
ミステリーやSFなどもそうだが、想像力というものが働いてこそのものだ。想像力の大切さを教えてくれるエッセイ。
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瀬戸川猛資さんといえば赤青の2冊の本。1冊は海外ミステリの評論『夜明けの睡魔』。そしてもう1冊がこれ、本と映画の評論『夢想の研究』。 映画評論というものにピンとこないので、実は本書には手を伸ばしていなかった。それが先日、『夜明けの睡魔』を再読したことで、どうにも読みたくなってし...
瀬戸川猛資さんといえば赤青の2冊の本。1冊は海外ミステリの評論『夜明けの睡魔』。そしてもう1冊がこれ、本と映画の評論『夢想の研究』。 映画評論というものにピンとこないので、実は本書には手を伸ばしていなかった。それが先日、『夜明けの睡魔』を再読したことで、どうにも読みたくなってしまった。そして、後悔した。ああ、もっと早く読むべきだった!おもしろ過ぎ。 夢想、と題するだけあって、本書で瀬戸川さんの思考はとどまることなく飛躍する。ハリウッドとユダヤ人の関係を述べていたかと思うと、司馬遼太郎の幻のミステリ作品、ポオや三島、オーソン・ウエルズと縦横無尽に飛び回る。珍説、奇説の類いから、気宇壮大で説得力のある新説まで、まさに瀬戸川武資ここにあり。映画、ミステリ、SF好きなら、これは読まなきゃ損ですよ。
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1989年から1991年までミステリマガジンに連載された「夢想の研究」をまとめた本。連載時に毎回楽しみに読んでいたが、20年以上前なので内容はほとんど忘れていた。まとめて読んでみて、大いに刺激を受けた。映画を的確に論じるには幅広い教養が不可欠だ、と痛感させられるのである。 ...
1989年から1991年までミステリマガジンに連載された「夢想の研究」をまとめた本。連載時に毎回楽しみに読んでいたが、20年以上前なので内容はほとんど忘れていた。まとめて読んでみて、大いに刺激を受けた。映画を的確に論じるには幅広い教養が不可欠だ、と痛感させられるのである。 著者の故瀬戸川猛資さんは本格ミステリの評論で有名だったが、同時に映画にも造詣が深かった。雑誌「スクリーン」に連載された双葉十三郎さんの「ぼくの採点表」を単行本全5巻にまとめるという映画ファンを喜ばせる仕事をしたことからも明らかで、出版社トパーズプレスは瀬戸川さんが興したそうだ。「夢想の研究」は映画と本を自在に評して映画評論専門の人にはない深く広がりのあるエッセイになっている。 ミステリと映画は親和性が高い。僕は本格ミステリを特別に好きではないので、エラリー・クイーンの有名な「Yの悲劇」は読んだが、「Xの悲劇」は読んでいない。だから「市民ケーン」が「Xの悲劇」を換骨奪胎しているという指摘に「えっ」と思った。それなら読んでおけば良かった。これ、瀬戸川さんのほかに指摘した人はいるのだろうか。 「市民ケーン」や「ロジャー・ラビット」、「12人の怒れる男」が本格ミステリであると論じた後、著者はこう書く。 ----------------------------------------- 謎解きと小説の合体という、この単純にして魅惑的な形式。それが映画人にさまざまなインスピレーションを与え、前記のような映画芸術を生み出してきたのだ。別のメディアから新しい切り口を入れられる時、この形式は驚くべき力を発揮する。それが理解できず、本格物はただのパズルだから下らないとか、映画にしたって仕様がないなどと言っている人間は、それこそただの鈍感である。 ----------------------------------------- また、ハリウッドで「十戒」や「ベン・ハー」などの聖書スペクタクルが量産されたのはハリウッドを牛耳るプロデューサーにユダヤ人が多かったからという指摘にもなるほどと思った。ユダヤ人のパレスチナ移住が始まった時期に合わせてサイレントの「十戒」や「ベン・ハー」が作られ、ユダヤ人弾圧の時期にはチャップリンの「独裁者」を公開し、イスラエル設立後には「栄光への脱出」が作られたのだ。 「スター・ウォーズ」の時代劇からの影響(これは黒澤明「隠し砦の三悪人」が有名)はよくいわれることだが、ジェダイ(Jedi)が時代劇(Jidai-geki)から来ているという指摘は言われてみれば、そうかもしれないな、いや、そうに違いないと思わされる。 瀬戸川さんは1999年に50歳で亡くなった。まだまだたくさんの映画とミステリに関する文章を読みたかった。
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本と映画を中心に、二つのメディアの想像力をクロスオーバーさせ、但しあくまでも現実との関わりにおいて、且つ大胆な想像力を巡らせ夢想を論じたと言う本である。 と、書くとなんだか小難しいし、自分でも意味がさっぱりわからない。 なので本書の内容から例をとってみると スコット・トゥロー...
本と映画を中心に、二つのメディアの想像力をクロスオーバーさせ、但しあくまでも現実との関わりにおいて、且つ大胆な想像力を巡らせ夢想を論じたと言う本である。 と、書くとなんだか小難しいし、自分でも意味がさっぱりわからない。 なので本書の内容から例をとってみると スコット・トゥローの「推定無罪」からアメリカの裁判制度に話がいき、そこから陪審員制度を踏まえ、シドニー・ルネット監督の「十二人の怒れる男」の非現実的性格を突き、最後には謎解きミステリは男だけの理屈の世界なのだと断言する。 なる程。本と映画の想像力をクロスオーバーさせて、現実に関わる問題を大胆に夢想し論じてますよね。そう思います思います。ええ、思いますとも。 とりあえずそんな難しい事ではなく、映画(様々なジャンル)や本(特にミステリとSF)が好きな人には、ためになったり驚いたりと知識が増えて楽しくなる一冊である。 ロスで行われたSFファンの集まりで出会った2人の「レイ」の話や、アメリカにはなぜ宗教スペクタクル映画多いのか、「ハワード・ザ・ダック」は謎解きミステリであるなど、好きな人はとことん食らいついてきそうな話が盛り沢山。 決まりきった当たり前の批評ではなく、従来の批評よりももっと踏み込んで、根拠に基づいて大胆に批評する瀬戸川さんのスタイルは私は好きだ。 存命であれば、今の映画や本をどの様に批評していたのだろうか。 残念でならない。
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