最後の物たちの国で の商品レビュー
あらゆる物が消えてい…
あらゆる物が消えていくという絶望的な状況を、独特のリズム感ある文章で綴るオースターの傑作の一つ。柴田元幸の翻訳も、原文のリズム感を良く伝える名訳となっている。
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あるはずの無い国なの…
あるはずの無い国なのに読むうちに実在しているように思えてくる。悪夢のような極限状況での人間が描かれている。読みやすく引き込まれます。
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次第に物がなくなって…
次第に物がなくなっていくという世界の話。一見大したことは起きないが、瑣末な出来事の連鎖が絶望感を募らせていく。海外よりも国内で人気が高いオースターの傑作。
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小川洋子『密やかな結晶』のような話かと想像しながら手に取ったら、まったく違った。陳腐な言い方をすれば、いわゆるディストピア小説。あまりにも絶望的な世界観だし、未来というものはおよそ考えられない。ヒロインは辛うじて生き延びているしその過程で人々の助け合いも多く経験するが、そうした相...
小川洋子『密やかな結晶』のような話かと想像しながら手に取ったら、まったく違った。陳腐な言い方をすれば、いわゆるディストピア小説。あまりにも絶望的な世界観だし、未来というものはおよそ考えられない。ヒロインは辛うじて生き延びているしその過程で人々の助け合いも多く経験するが、そうした相互扶助や生命力を讃える話でもない。ただ、人を極限状況でも生かす何かーそれは時に現実から目を逸らしてぼんやりとした夢を見ることーが印象的だった。
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うーむアンナ・ブルームよ生きていてくれい。 消息を絶った兄を求めて、すでにまともに機能していない国に渡ってしまった若い女性アンナのサバイバル物語。青いノートにつづられた手紙という形で語られている。『ガラスの街』では赤いノートだった。ノートにぎっしり書き込む登場人物がP.オースタ...
うーむアンナ・ブルームよ生きていてくれい。 消息を絶った兄を求めて、すでにまともに機能していない国に渡ってしまった若い女性アンナのサバイバル物語。青いノートにつづられた手紙という形で語られている。『ガラスの街』では赤いノートだった。ノートにぎっしり書き込む登場人物がP.オースター氏は好きなのだろうか。 苦労話の連続ではあるのに、相変わらず語り口が天才的に面白くて、内容ほどには重苦しく感じずに読めた。不思議な本だ。 サバイバルのハウツー描写が地味に沁みた。ショッピングカートを体にくくりつけて狩猟民族のようにアクティブに街をうろついて物拾いをする人たち。原語はスカベンジャーだろうか。くくりつける紐を臍の緒と呼ぶのが洒落てる。もしかしたらアメリカのホームレスからイメージしてるのかもしれない。 目的は分解し、夢は燃え尽き、愛する人々は死んでゆき、刹那的な希望だけがかろうじて残る。生まれたら死ぬのが当たり前の成り行きだけれども、誰も自分が死に向かって生きているとは思っていない。ただ日々をどうにか生き続けるだけだ。その過程で出会って別れる風景や人物は、どんなに素晴らしくても永遠に残してはおけない。風景は記憶から消えてゆき、人との関係も変わってゆく。それでも瞬間瞬間鮮やかに花開き、奇妙に愛しく人生を彩ってくれる。 アンナが歩いた道程はひどく過酷で、奇妙で、とんでもなくファンタジーなのだが、同時にとても馴染みのあるものだった。 青いノートがちゃんと誰かに読まれているのがいい。読んでいるのは元恋人なのだろうか。それとも何の関係もない赤の他人だろうか。どっちでもいいのかもしれない。発した言葉が、別の誰かに届くこと、そこには救いがある。
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兄を助けに「そこ」に行った女性の話。「そこ」に染まるつもりがないのに、最終的に「そこ」に居場所を見つけてしまう過程が秀逸。 ポールオースターでは1番好きな作品。
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秩序が崩壊し、犯罪が横行している国。その国にジャーナリストとして取材に行き、行方不明になった兄を探す主人公アンナ・ブルーム。常に状況は変わり一定の状態が存在しない世界。状況が変わりすぎて人々の思考から言葉どころかかってあった概念さえ消えてしまう世界。そんな世界の放浪記。アンナが手...
秩序が崩壊し、犯罪が横行している国。その国にジャーナリストとして取材に行き、行方不明になった兄を探す主人公アンナ・ブルーム。常に状況は変わり一定の状態が存在しない世界。状況が変わりすぎて人々の思考から言葉どころかかってあった概念さえ消えてしまう世界。そんな世界の放浪記。アンナが手紙を書いている形式なので、語りかけてくる感じがよい。近未来とも思えるし、まさに今どこかで起こっていることにも思える。
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再読。 従来の秩序が崩壊し、横行する食物の強奪や殺人はもはや犯罪ですらない国。物が次々失われていき、大半の人々が街を漁って一日を生き延びる国。そんな国に行方不明の兄を捜しに来たアンナ。 人の悪意に揉まれながら逞しく生きる術を身につけ、絶望の中でも支え支えられる人々との出会いから新...
再読。 従来の秩序が崩壊し、横行する食物の強奪や殺人はもはや犯罪ですらない国。物が次々失われていき、大半の人々が街を漁って一日を生き延びる国。そんな国に行方不明の兄を捜しに来たアンナ。 人の悪意に揉まれながら逞しく生きる術を身につけ、絶望の中でも支え支えられる人々との出会いから新しい希望を見出していく。誰かに必要とされる、それこそが最大の生きる理由なのかもしれない。 昔読んだ時は完全に架空の世界の話だと思えたが、新型ウイルスの影響でマスクや一部の品々が姿を消したこの状況、いつこの“最後の物たちの国”になってもおかしくないのだと痛感する。 「何だかんだ言ったって、たとえこんなひどい時代だって、人生ってのはいくらでも素晴らしくなれるんだ。それをわざわざ台なしにしちまうことしか考えない人間がいるなんてねえ、ほんとに情けないよ」のイザベルの言葉が胸に刺さった。 この小説は作者からのアンナからの、混沌した時代を迎える今の人たちへのメッセージ。
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ニューヨークが舞台になっている三部作の後、1987年に、「ムーンパレス」の前に書かれた作品だが、少し趣が違っている。 アンナ・ブルームは行方が分からない兄を探して船に乗った、アンナ・ブルームという女性が、瓦礫ばかりの荒廃した土地に降り立ちそこで暮らし、それを知人に書き残したと言...
ニューヨークが舞台になっている三部作の後、1987年に、「ムーンパレス」の前に書かれた作品だが、少し趣が違っている。 アンナ・ブルームは行方が分からない兄を探して船に乗った、アンナ・ブルームという女性が、瓦礫ばかりの荒廃した土地に降り立ちそこで暮らし、それを知人に書き残したと言う形になっている。手がかりは兄を知っていると言う一枚の写真だけだった。 ここは、存在したものが絶え間なく消えて行くところ。「常に消滅していく、最後の物たちの街」だった。 そこに入ると、気候までが定まらない、まるで生きた記憶が朧になり霞んでついに消えて行くような、思い出す過去もなく思い描く未来も忘れ去って、数少ない生きる選択肢のなかから、何としても生命を繋いでいかなければならないところだった。 「アイアム・レジェント」という全てが崩壊した映画がある。それを見たとしても振り返れば何も変化していない日常がある。しかし、この非情な生き方を読んで、映画が作り物だと信じられるだけ、今を対比させて、なお。この小説を読むと、感じることがある。 アンナの現実は食料を奪い合い、食べられるものは全て食べつくす、極寒の日も酷暑の中も、生きぬかなければならない。「飛び人」(自殺者)「這う人」「走る人」人は群れ、死さえ生きる源になり、金を持っているものは安楽死も出来るコースがある。様々に壊れた世界では人は狂っていく。わずかに残った秩序をわずかな人たちが管理し、政治体制は都合に合わせてコロコロと変わり、人を苛んでいる。 アンナも、食べられるものは何でも食べ、拾った靴を履きぼろを身にまとう。老女と知り合って瓦解寸前にあるような建物に同居し、彼女の死を看取ったり、訪ね当てた写真の男と暮らしたり、妊娠中に襲われて高い窓から飛び降り一命を取り留めたり、様々な生活が、最後には高価な(ぜいたく品は高騰している)ノートにか書かれ、彼女の声が届いてくる。 行きぬくために汚物にまみれ地面を這うような生活の中から、一握りの最後の者たちを救うために、遺産を使い果たしつつ善行を施す人も、ついに資源が突き、破綻して消えて行く。 町の中の石だらけの錯綜した道を彷徨するうち、足の裏に当たる尖った石までも気にならなくなるほどの心の痛み。飢餓、欲望、繰り返される暑さ寒さの中の人の脆さが、絶望感が、これでもかと書かれている。 オースターの幻想的な、曖昧な世界にあった自己と他人の醸し出す曖昧な境界線。交じり合った独特の孤独な世界は。いつかこの土地に蔓延する孤独感、絶望感、危機感に、姿を変えて、実に鮮明に、感覚的に表されている。救いのないこんな世界を、体験しないまでもまだ近い過去に見たことがある。 こうした、ひとりの育ちのいい女が踏み込んだ現実が、寓話的な迫力を持って迫ってくる。彼女の運命とともに、印象的な終末の世界がいつまでも心に残る。
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四冊ぶりの柴田元幸訳ポール・オースター。 舞台は自壊して秩序を失った国。時期は近未来を思わせるが、訳者あとがきによれば近未来ではないらしい。これでもかというくらいの悲劇が次から次へと主人公アンナ・ブルームに襲いかかる。物語の大半は失意と絶望。でも、終盤のほんのわずか、本全体の数%...
四冊ぶりの柴田元幸訳ポール・オースター。 舞台は自壊して秩序を失った国。時期は近未来を思わせるが、訳者あとがきによれば近未来ではないらしい。これでもかというくらいの悲劇が次から次へと主人公アンナ・ブルームに襲いかかる。物語の大半は失意と絶望。でも、終盤のほんのわずか、本全体の数%にも満たない部分で光がさす。そして、その光が意外なまでに明るく、明日への希望が読後感に残る。筆者と訳者の卓越した技術がその読後感を生み出しているのは確かだが、もうひとつ重要なポイントは、オースターにしては珍しく(もしかしたら唯一?)女性を語り手としていること。これが悲劇の深さと、希望の明るさをより一層強くする効果を与えている。 まだまだオースターは止められない。
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