戦後世界貿易秩序の形成 の商品レビュー
我々が現代において享受している貿易の容易さはかつてからするとあり得ないほどであるが、その容易さを担保しているのは様々な要因があれど、戦後の秩序形成に因る部分が非常に大きい。そしてその事実はGATTやIMF、WTOなどの問題に数多の人の関心が集まっていることと繋がっている。 戦後の...
我々が現代において享受している貿易の容易さはかつてからするとあり得ないほどであるが、その容易さを担保しているのは様々な要因があれど、戦後の秩序形成に因る部分が非常に大きい。そしてその事実はGATTやIMF、WTOなどの問題に数多の人の関心が集まっていることと繋がっている。 戦後の経済秩序形成に関する文献はそれゆえに元よりいくらか存在しており、例えば英米関係に絞ってもガードナーの著作など決定的とも言えるものが既にある。そういった欧米の著者によるものは交渉の当事者に直接あたることが出来るわけで、日本の学者はその意味で不利な状況にあるだろう。 かような潮流において日本の学者によって著された本書の特筆すべき点は、1930年代から45年までの経済的なデータが豊富に収載されている点にあると言える。特にイギリスの外交に関する情報が詳しく、いったいその当時のブロック経済の実態はどうであったのかということをよく解き明かしてくれている。 秩序形成を齎した戦後における反省とは、30年代の保護主義に対してなされているのであり、その当時の経済的な事実を踏まえないことにはその意義を理解するに不十分であろうが、歴史家による著作では当事者のメモなどから細かく分析されるに過ぎない。そういった欠陥を乗り越えられるのが本書であると思う。 しかし本書はそういった長所を備えている一方で、非常に残念な短所も兼ね備えている。 戦後世界貿易秩序の形成について描かねばならないのに、その叙述は1945年で終わっている。それではGATTすら成立しない。これでは看板に偽りがある。他の文献と併読することをお奨めする。
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