遠い崖 の商品レビュー
やっと「大政奉還」である。本書の時間軸は、これまでのどんな歴史書よりも長く詳細である。 この膨大なページ数を一般の人々に読ませられることも、著者の一つの力だろう。 「アーネスト・サトウ」や「ウィリス」の日記や手紙、またイギリスやフランスの外務省の公文書等を駆使しての、この時...
やっと「大政奉還」である。本書の時間軸は、これまでのどんな歴史書よりも長く詳細である。 この膨大なページ数を一般の人々に読ませられることも、著者の一つの力だろう。 「アーネスト・サトウ」や「ウィリス」の日記や手紙、またイギリスやフランスの外務省の公文書等を駆使しての、この時代を再現するかのような本書はすばらしいとしか言いようがない。 ここで思ったのが、「徳川慶喜」のキャラクターである。彼は、「天才」なのか「愚将」なのか。「まじめ」なのか「気弱」なのか。歴史を振り返ってもまったく不明であると思っていたが、詳細な足跡を追いかけた本書を読んでもよくわからない。 31歳の若さで幕末の動乱の一方の主役を務め、「家康以来の天才」といわれながら、大阪からの「自軍を見捨てての逃亡」。 「敗軍の将」から最後は「明治の復権」と、なんとも言葉が出ない生涯を送った人間だが、本書で読む「徳川慶喜」は光る局面もあったが、激動期の「政治軍事指導者」としてはやはり失格であったと思えた。 本書では「倒幕派との対決が天皇の争奪であるというのに、なぜ徳川慶喜はかくも簡単に京都を明け渡したのかと、サトウは何度説明をきかされても容易に納得しかねた模様である」と語らせている。 なるほど、「明治維新」を捉える「根本」がここにあったのかとうなずく思いがした。 「天皇」という「玉」を掌中にすることが権力の条件である以上、常に京都には相手方を大きく上回る軍事力を置くべきというプラグマチックな著者の見方がよくわかる文章である。 また、イギリス公使「サー・ハリー・パークス」とフランス公使「ロッシュ」の確執も実におもしろい。 この時代は、個人の個性によって国と国との外交が動いていたということがよくわかるが、これが「英雄の時代」というものかと新鮮なおどろきを覚えた。 明治維新はまだ始まったばかりである。先が楽しみである。
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