世界の民話 新装版(9) の商品レビュー
ぎょうせいから出た世界の民話全12巻のうちの、「アジアI」。国・地域でいうと、「中国・モンゴル・シベリア・朝鮮」です。 巻末の解説によると、中国や朝鮮の民話は日本の民話とも近いものが多く、なじみ深いのでシベリアやモンゴルの民話を多めにした、との事。これは有難い! しかし、中国朝...
ぎょうせいから出た世界の民話全12巻のうちの、「アジアI」。国・地域でいうと、「中国・モンゴル・シベリア・朝鮮」です。 巻末の解説によると、中国や朝鮮の民話は日本の民話とも近いものが多く、なじみ深いのでシベリアやモンゴルの民話を多めにした、との事。これは有難い! しかし、中国朝鮮含め、全てドイツの民話集を訳したもののようなので、中国朝鮮の民話も人名や地名は漢字表記にはなっていません。 日本では有名な「杜子春」などもかろうじて( )にいれて杜子春、となっていただけでした。 これも巻末の解説で触れられている事ですが、モンゴルやシベリアの民話は、定型語句などが多く繰り返されていて、いかにも口承で歌うように伝えられたのだろうなあ、と感じられます。オリジナルは韻を踏んでいるのだとか。これは、同地域のシャーマニズムとも深い関連があるのだそうで、そういえば確かに、アイヌの民話も同じようではなかったかと。 また、同地域は熊が獣の王となっている事も興味深い点です。 つまりここもアイヌと同じですが、文化的には朝鮮半島も含まれます(朝鮮では、人間は熊から生まれたという伝説があります)。 モンゴル、シベリアの民話の主人公はかなりの率で、町の長老を騙したりします。町の長老は圧制者の象徴であるそうですが、それにしても、騙しOKというのは民族性でしょうか。 一方、儒教文化の影響が良くも悪くも強い朝鮮の主人公などは、どんなに苛められても、主人や親、兄、夫などにひたすら従順なのが印象的です。 不可抗力で火種を絶やしてしまった事を責められた嫁が、泣く泣く花嫁衣装を火にくべて(これでなんと火種は後に甦る)、自殺してしまうなどというのは読んでいてもいたたまれません。 一方、同様にひどい兄にも従順で貧乏な弟が、ツバメを助けて金持ちになり、逆に貧乏になった兄の家族を引き取って、末永く幸せになるという「ツバメの足」は、日本では隣り合わせに住んでいるお爺さんの話になっています。ツバメが持って来たかぼちゃの種が実って、弟は財宝を得、兄は逆に財産を失う、この過程は朝鮮の民話の方がリアリティがあって面白い。 中国の民話としてとられているものは、故事からの話が多いようですが、間にドイツを挟んでいるためか、本来は道士とか方士とあるべきところが、魔法使いとか聖人とかになっているのは、大変、もやんとします。 まあ、ここらへんは大人の読者は脳内変換して読めば良い事ですが。 なお、この全集は巻末に民話の祖型番号などがインデックスとして掲載されているため、民話の比較や伝播に興味のある人には便利だと思われます。
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