開かれた孤独へ の商品レビュー
日本の伝統思想や西洋の哲学の思索を幅広く参照しながら、人間存在の根源にせまろうと試みている本です。 著者はまず、日本語の「ひと」ということばが、「ひ」と「と」の合成語だということに目を向け、さらに記紀神話の検討を通じて、日本の伝統思想のなかに流れている生命観を明らかにしています...
日本の伝統思想や西洋の哲学の思索を幅広く参照しながら、人間存在の根源にせまろうと試みている本です。 著者はまず、日本語の「ひと」ということばが、「ひ」と「と」の合成語だということに目を向け、さらに記紀神話の検討を通じて、日本の伝統思想のなかに流れている生命観を明らかにしています。つづいて、大乗仏教、とりわけ親鸞の「自然法爾」思想のなかにも、おなじ生命観が受け継がれていることがたしかめられます。著者はそれを、「自己の内から自己を越えたものが自己のものとして自己の内に働く」と表現し、自己の底が開かれて無限の光に通底しているようなありかたとしてとらえています。 さらに、デカルトやドイツ観念論などの西洋哲学の思索の概観をおこない、人間の存在のありかたを解明するために、上述の生命観が生かされるべきだということが論じられていきます。 日本の伝統思想や西洋哲学の概説を織り込みながら、人間存在のありかたについての哲学的思索が展開されており、おもしろく読みました。ただ、このような議論の展開になっているのは、著者が大学でおこなった授業の内容に基づいているためだと思われるのですが、個人的には直接問題そのものの解明に向かって欲しかったという気がします。
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