縛らない看護 の商品レビュー
▼…たとえ具体論であっても、患者さんはきっとつらいでしょうという、どこか他人事のレベルではやはりわからない。 私は、 「あなたは縛られたいか」 「あなたの親ならどうであるか」 「あなたの子どもたちであればどうか」 と徹底して問いつづけていった。(pp.10-11、田中と...
▼…たとえ具体論であっても、患者さんはきっとつらいでしょうという、どこか他人事のレベルではやはりわからない。 私は、 「あなたは縛られたいか」 「あなたの親ならどうであるか」 「あなたの子どもたちであればどうか」 と徹底して問いつづけていった。(pp.10-11、田中とも江「序章 縛られているのはだれか」)
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医療現場での身体拘束の全廃を先駆的に実施してきた上川病院の理事長であり医師である吉岡氏と総婦長である田中氏による実践の記録と「縛らない看護」提言の書である。縛って人間の自由を奪うなんて尊厳に抵触する行為だが,医療のためと思えばそこはかとない違和感がありながらも縛ってしまうだろうし...
医療現場での身体拘束の全廃を先駆的に実施してきた上川病院の理事長であり医師である吉岡氏と総婦長である田中氏による実践の記録と「縛らない看護」提言の書である。縛って人間の自由を奪うなんて尊厳に抵触する行為だが,医療のためと思えばそこはかとない違和感がありながらも縛ってしまうだろうし,感覚が麻痺すれば楽に仕事を進めるためにとにかく縛るようなことにもなりかねない。いや,なりかねないどころか,当時もそしてたぶん今でもそのような医療施設はあるだろう。でもそういった「身体拘束」や「抑制」を「縛る」と言い換えることで非人道的な印象をもたせ,その害悪を医療界に,さらには社会に問う動きは,本書刊行前後(1995~2000年くらい)に大きな注目を集めた(らしい)。 本書で描かれている上川病院の抑制廃止の取り組みがすごいのは,それが偶然に成功した一例でなく,試行錯誤の末に十分な根拠づけと工夫の蓄積とともに行われた汎用性のある取り組みである点だ。だからこそ一つのムーブメントになり得たのだと思う。 そして実は,その汎用性が生きる場は医療の場だけではない。本書は抑制廃止を訴える書として一流……というか当時は唯一無二なわけだが,それとともに,組織論やリーダシップ,社会変動の実践記録としても一流だと思う。それは時に,抑制廃止というメッセージの強さのあまり,後者に関する珠玉の内容がかなり無頓着にされていてもったいないと思ってしまうほどなのだ。
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