関係発達論の構築 の商品レビュー
著者の学位論文の前編にあたる本で、主として著者の提唱する関係発達論の理論的な側面があつかわれています。後編は『関係発達論の展開』(ミネルヴァ書房)で、こちらではエピソード記述に基づく具体的な議論が展開されています。 理論編ということで、先行研究のサーヴェイや、メルロ=ポンティに...
著者の学位論文の前編にあたる本で、主として著者の提唱する関係発達論の理論的な側面があつかわれています。後編は『関係発達論の展開』(ミネルヴァ書房)で、こちらではエピソード記述に基づく具体的な議論が展開されています。 理論編ということで、先行研究のサーヴェイや、メルロ=ポンティに依拠した著者の「現象学的」な立場についてくわしく論じられています。ただしあくまでも哲学ではなく心理学であり、それも臨床的な立場を標榜している著者だけあって、具体的な場面にそくした理論構築がめざされています。こうした著者の姿勢は、子どもと養育者とのかかわりに参加しつつ観察をおこなっている際にしばしば訪れる、「はっと気づかされる」体験を「生きられる還元」と呼び、そこから具体的な場面にそくした関係論的な考察を引き出そうとしていることにもうかがうことができます。 しかし、やはり理論的な方面に偏っている印象は否めず、たとえば子ども、養育者、そして養育者自身の母親と3代にわたってつづく「育て-育てられる」関係を、一つのモデルによって示そうとしているところに、生命論的な全体論の雰囲気を感じてしまいます。もちろんじっさいの著者の参加観察は具体的な場面にそくしておこなわれたものだということは承知しているのですが、それを理論的なモデルに昇華する段階には、まだ考えるべき事柄が残されているのではないかという気がします。
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