ケルゼン研究(Ⅰ) の商品レビュー
日本のケルゼン研究を代表する著者の研究論文を集成し、一冊にまとめたもの。合計で16本の論文が収録されているが、全体は「I 伝記の周辺」「II 法理論における真理と価値」「III 哲学と法学」「IV ケルゼンとシュミット」の4つに分かれている。Iはおおよそケルゼンの思想的プロフィー...
日本のケルゼン研究を代表する著者の研究論文を集成し、一冊にまとめたもの。合計で16本の論文が収録されているが、全体は「I 伝記の周辺」「II 法理論における真理と価値」「III 哲学と法学」「IV ケルゼンとシュミット」の4つに分かれている。Iはおおよそケルゼンの思想的プロフィール、とりわけオーストリアないしウィーンという特異な文化圏に焦点を合わせたものになっている。IIはreine Rechtslehreを「法の純粋理論」と銘打ち、その哲学的基礎と体系・構造を祖述するというもの。哲学的基礎については、「科学」としての法学とイデオロギーの絶対的区別、因果科学と規範科学の二元論が取り出される。それから、一般法理論としての純粋法学の様々な主張・論点が取り出される。IIIは「哲学と法学」というタイトルだが、純粋法学の哲学的基礎の問題に加えて、美濃部達吉のケルゼン批判、根本規範の占める位置、ケルゼンの民主制論など、長らく純粋法学の性格について問題となってきた論点に対する著者の解答が提示される。とりわけ、ケルゼンの「法実証主義」が法学の対象を実定法に限定するだけのものであり、実定法にただ追従する生き方を表すものではないという理解は、現代でもなお根強い「法実証主義」批判に対する鋭い再批判である。そして最後にIVでケルゼンの論敵カール・シュミットとの比較が、とりわけ根本規範論と憲法制定権力論、革命と戦争など、シュミットが『政治神学』や『政治的なものの概念』で展開したような18世紀的理神論的=ケルゼン的国家論批判で扱われた論点に対するケルゼンの解答を提示するものである。とりわけ、国内法優位説をとるならば、「彼にとって、内乱罪の犯人が憲法制定権者に転化するのは、「法と国家の偉大な奇蹟」として、言挙げせず受け取らるべき事実に他ならない」という理解は、法学という学問を認識に特化させるケルゼンの志向からすれば当然の結論であるが、もとよりそれは、特定の集団を「憲法制定権者」として正当化するイデオロギーを提出する法学に対する鋭い批判に他ならない。
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