太白山脈(第4巻) の商品レビュー
「‥‥ところで、この世の中の出来事を見通すにはそれなりの眼力がなけりゃならん。水溜りにも流れがあるように、この世の中の出来事にもそれなりの根っこがあり、脈絡があるんじゃ。どんな出来事もある日突然起こるわけじゃなく、みんな互いに関連しているんだから、その根っこを探り当てられなけりゃ...
「‥‥ところで、この世の中の出来事を見通すにはそれなりの眼力がなけりゃならん。水溜りにも流れがあるように、この世の中の出来事にもそれなりの根っこがあり、脈絡があるんじゃ。どんな出来事もある日突然起こるわけじゃなく、みんな互いに関連しているんだから、その根っこを探り当てられなけりゃ、世の中をきちんとみることはできねえ。今度のこともただなんとなく起こったわけじゃなく、済州島での戦いと関連あるし、済州島の戦いは南だけの単独選挙と関連あるんじゃ。それから単独選挙に反対して立ち上がったのは一昨年の騒ぎと関連し、一昨年の騒ぎは、解放になって国が二つに分けられたことに始まるんじゃねえのか。わしが言うことが分かるかのう」(68p) 知識人だけがこの国の矛盾を理解していたわけではなかった。東学党の乱で伝令係を担って、日本軍の虐殺から生き残ったというこの村の長寿老人も、大まかな処で朝鮮戦争に向かい、そして現代に至るまで大きな「恨」を抱えようとしているこの国の姿を観ていた。 馬三洙が突然、声を張り上げた。 「じゃあ、どうするんだよ。目の前に差し迫った小作問題だって解決できねえのに、世の中の流れにあれこれ言ってみたところでどうにもならねえ。何を言ってもどうせ雲をつかむようなたわごとなんだし、粥腹から力がぬけるだけさ」 「のう徳甫、お前のいうことももっともだが、わしらの話がかならずしもたわごとだとばかりは言えねえぞ。甲午の乱の時にしろ今回のことにしろ、先頭に立って戦い、死んでいったものたちは、自分だけいい暮らしをしようと思ってやったわけじゃねえ。間違った世の中を正し、みんながいい暮らしをするためじゃねえか。その者たちが信じていたのは何だ。自分たちの体か、手に持った銃か。いや、いや、そんなものは取るに足らねえ。自分たちの後ろにいるたくさんの者たちの気持ちも自分たちと同じだと信じる、その気持ちに支えられて戦いもし、死にもしたんじゃ。その気持ちがなけりゃどうやって戦う力を振り絞り、死ぬ覚悟ができるちゅうんじゃ。命が惜しくねえ者がどこにいる」(70p) 韓国の人たちにどうしてもかなわない、と感じるのはこういう描写である。日本人も確かに闘ってきた。しかし、何十万人も命を賭して闘ってきた経験が我々にはない。東学党の乱にしろ、光州にある記念館でちゃんと顕彰しているし、3.1独立運動には至る処に記念館があり、そして碑が建てられている。光州事件には国立墓地がある。韓国の人たちはそれらの「歴史」の上に育ってきているのである。 よく韓国の反日運動は激し過ぎると言われる。偏向教育のせいだと云う。確かに、偏向していると私も思う。事実の間違いがあれば正さなくてはならないとも思う。しかし、「激しい」のは当然だと私は思う。彼らはそれだけの犠牲を払ってきているし、それを忘れないのは当たり前なのだ。むしろ、日本人の方が羊のように大人し過ぎるのである。日章旗が焼かれているのならば、その場に行って堂々と口げんかをしてくればいい。それぐらいのリスクを負わないと彼らの「歴史」と対等に闘えないのではないか。 彼等の「命の賭し方」はここでは問わない、問えないし、わからない。廉相鎮のゲリラ戦は、ついには本格的な戦争に変化している。これから朝鮮戦争に突入するはずだが、近親憎悪のような時代に人々はどうなってゆくのか。 内容(「BOOK」データベースより) 廉相鎮率いる左翼勢力は栗於地域を解放区として掌握、農地改革を実施し、農民の支持を得ていた。解放区の噂が流れる中、筏橋では農地改革をめぐって地主と小作人たちの対立が深刻化し、地主たちが左翼に加担した者に小作をさせないことを決めたため、さらに不穏な空気が漂い始めた。一方、“アカ”の追及に執念を燃やす青年団長廉相九による拷問を受け鄭河燮の子を流産した素花、アカの夫を持ったために廉相九に犯され身ごもって自殺を図る外西宅…苛酷な運命に翻弄される女たちの愛の行方は…。 2013年10月19日読了
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