イギリス怪奇幻想集 の商品レビュー
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18人の作家による怪談アンソロジーである1937年刊行の原著から、英国人作家の作品7編をセレクトした日本オリジナル。ブラックウッドはじめウォルポール、レ・ファニュなどお馴染みの顔ぶれ。 以下各作品について少しずつ。 ・牧師一家の次女ジェーンは間近に控えた堅信式に不安を覚えていた。彼女は兄の友人と教会の片隅に彫られたラテン語の文言を見つける(早朝の礼拝/M.アーウィン)。ジェーンに起きたのは転生か憑依か。彼女が黒ミサの場面を幻視する描写はなかなか怖い。 ・旧友が司祭を務める教会の改修工事に携わった男が遭遇する恐怖の記録(セアラの墓/F.G.ローリング)。典型的な吸血鬼(退治)もの。この記録の書き手ってかなり手練れのヴァンパイアハンターではw ・湖畔での釣りキャンプで主人公を見据える何者かの視線。その主は大きな森林狼だった。(メディシン湖の狼/A.ブラックウッド)。大自然やそれに対峙する心理の描写、ネイティブアメリカンへの傾倒などブラックウッドらしくも、ややハートフルな幻想譚。 ・クリスマス休暇に自宅に招待を受けた作家。彼はその家に嫌悪感を覚える。招待した主の態度もまた奇妙なものがあった(ラント夫人の亡霊/H.ウォルポール)。結局何があったのか、何が起きていたのかは朧気に語られるだけだが……。 ・夫の赴任先の北京で中古の車を購入したボールビー婦人は、その車内でフランス語で喋る若い女性の声を度々耳にするようになる(ビュイックにつきまとう声/A.ブリッジ)。そこにいない声の主に次第に心を寄せていく夫人が辿り着く結末が、何とも皮肉。 ・パブから帰る夜道、同道した見知らぬ男が語る話は「白い道」(E.F.ボズマン)。これもオーソドックスな幽霊譚だが、男の話によって主人公が子供時代の記憶と現在が混交する描写が何か幻想的。『恐怖の1ダース』(講談社文庫)で4年前に既読だったことに、読了後に気付いた。 ・品行方正な海軍士官バートン大佐は正体不明の足音と手紙に次第に精神を病んで行く(ウォッチャー/J.S.レ・ファニュ)。創元推理文庫の『吸血鬼カーミラ』収録の「仇魔」とほぼ同じ(そもそも原題は同じ"The Watcher")。「仇魔」はヘッセリウス博士の症例記録の一という体裁なので、こちらが原型、あるいは作者が後に加筆したものが「仇魔」なのかも。 古い本かと思いきや1998年が初版と案外新しい。19C末~20C初期の英国怪談集としては捻りはさほどない分、オーソドックスなセレクションでもあるので、この辺りが好きな人向け、か。
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