日本を滅ぼす教育論議 の商品レビュー
今,非常に複雑な思いである。 この本に書かれていることはきわめて示唆的である。教育論議が陥りやすい陥穽について的確に記載されており,大変啓発的であると思う。その点では,有意義な本であると強く推奨したい。 が,「しかし」である。 読んでいて終始頭を離れなかったことがひとつあ...
今,非常に複雑な思いである。 この本に書かれていることはきわめて示唆的である。教育論議が陥りやすい陥穽について的確に記載されており,大変啓発的であると思う。その点では,有意義な本であると強く推奨したい。 が,「しかし」である。 読んでいて終始頭を離れなかったことがひとつある。 それは,この著者がまさに教育政策の中枢にいたということである。行政サイドにいた人間が,こうした問題点に気づきながら,今日のこの状態を招来しているということが,わたしにはどうしても感覚的に許せないのである。 もちろん,官庁という巨大組織の中で,職員一人の力は微力だろう。しかし,一人が微力だからという理由を,追認し,「だから仕方ない」といってしまえば,そもそも役人の存在意義は何なのだろうか。むしろ気がついたものが声を上げずして,一生の職場としての何の意味があるのだろうか。国政に携わる者としての何の意義があるのだろうか。 実は最近似たような体験を繰り返している。たとえば一つは某大手企業グループの総帥秘書だったというビジネスマンがここへ来て,戦後の日本の来し方を総括し鋭く問題提起するというもの,また,原爆被害者が世間の偏見を恐れて沈黙を守っていたが,子供たちも十分な年齢となり,その実態を語り始めたというものもあった。なかにはひどいのになると,某元司法関係者のトップが,一部の関係者を慰撫しようとあえて傍論で述べたよけいな憲法解釈が今一部の利権団体で拡大解釈されて国権が侵害されようとしていることについて,本人が「あれは間違いであった」などといけしゃあしゃあと言っていたにするのを見ると,国賊ものではないかとすら思ってしまうのである。 もっとも,そうしたものへの感情も含めてこの著作・著者にぶつけるのは乱暴だとは承知している。 しかし彼らが(一緒くたに話をするのをご容赦いただきたい)もっと早くにこうした言論行動を起こして欲しかったと強く思うのである。それぞれの家庭の事情などはあったのであろう。しかし,年寄りが「今思えば・・・・」と思い出語りに語っても,現役や一線の官僚やビジネスマンが語るよりも影響力は格段に乏しい。むしろ役時代に思い切りいえなかったことの言い訳作りをされているのではないかと穿った思いすらしてしまうのである。 そして,こうした戦後世代の方々が戦後一貫して国家に貢献することを逃げ続け,その延長として,だれも国家に対する貢献など考えない今のこの体質につながっているのではないかと思わずにはいられない。 もっとも,この著者に関しては,たまたま目にしたインターネットサイトで,著者が官庁ではだめだと思って指導者を育てるために大学に移籍したという趣旨の記載を見つけた。しかしまた別のサイトには,著者の所属する大学は官庁の天下り受入れ大学として有名とも記載されている。たまたまこうした両論を目にしたが,もしも前者のコメントを眼にしなければ,この著者に対しても同様に厳しい目を向けていたに違いない。 自分がこの有益な著作を素直にありがたく受け止め,感じられるためにも是非前者が真に事実であることを個人的に望んでいる。 さて,先日海保職員が中国人船長逮捕時の映像を流出されたとして懲戒を受け,その後自主退職となった。組織の内規を破った以上,ペナルティを課されるのはやむを得ないことである。 しかし,この海保職員は職場のルールと,自分の考える正義とを比較考量し,悩み,社会の利益と思われるものを優先した。 その正邪は分からない。国民が大反対したポーツマス条約が歴史の正解であり,国民が激賛した松岡洋祐の国際連盟脱退は愚挙であった野を見れば,最終的な正邪の結論はまたまだ先の人たちが出するのであろう。そうではなくて,ここで大切なのは,個人が個人を越える理想のために,個人の利益を犠牲にする行動をとったということだ。 安全地帯に移ってから語り始める人たちに言いようのないわだかまりを感じていたわたしは,彼の行動に痛快感は感じたものの,しかし同時にまた,義憤というものが確かに個人を犠牲にしているさまをまざまざと見せ付けられ,それはそれでいいようのない憤りも感じてしまうのであった。 後半,この本の感想からは大きく離れてしまって申し訳ない。 内容はきわめてオーソドックスで読みやすく,実際の検討の上で有意義な示唆に富んでいる。是非教育について考える方々にはその最初の段階で読んでおいていただいて損はない一冊である。 (内容には本当によいのだが,どうもそのわだかまりを書きすぎたためどう読んでも褒めた書評に見えないかもしれない。申し訳ない。)
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[ 内容 ] おそらくは、日本人の多くに共通する何らかの思考プロセスや、陥りがちな論理の陥穽のようなもの―が、日本における教育論議に「すれ違い」や「カラ回り」をもたらし、建設的な教育論議を妨げているのではないか、ということを、ずっと思い続けてきた。 以下、これまで漠然と感じてきた...
[ 内容 ] おそらくは、日本人の多くに共通する何らかの思考プロセスや、陥りがちな論理の陥穽のようなもの―が、日本における教育論議に「すれ違い」や「カラ回り」をもたらし、建設的な教育論議を妨げているのではないか、ということを、ずっと思い続けてきた。 以下、これまで漠然と感じてきたそのような「違和感」や「おかしなこと」の背景や構造を、分析・整理しつつ述べていきたい。 [ 目次 ] 序章 「マネジメント」の失敗 第1章 「現状」の認識に関する論議の失敗 第2章 「原因」の究明に関する論議の失敗 第3章 「目標」の設定に関する論議の失敗 第4章 「手段」の開発に関する論議の失敗 第5章 「集団意思形成」に関する論議の失敗 [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]
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日本人が議論をしていると、だんだん論点がずれていってしまうことが多い。それはそこここで言われていることだし、著者もそれを身をもって実感されたようだ。例えば「教育予算の増強は経済の発展につながる」というお題に対して「崇高な教育と俗な経済とを結びつけて考えるのはおかしい」という論点...
日本人が議論をしていると、だんだん論点がずれていってしまうことが多い。それはそこここで言われていることだし、著者もそれを身をもって実感されたようだ。例えば「教育予算の増強は経済の発展につながる」というお題に対して「崇高な教育と俗な経済とを結びつけて考えるのはおかしい」という論点のずれた意見が出たり、学力低下の議論では「とにかくがんばること」という精神論的で何の解決策にもならない結論が導かれたりする。本書では、外国の事例や研究などを引き合いに出しながらそういう噛み合わない議論の事例を挙げ、ひたすら解説している。「あんなこともあったんだー、えーこんなことも−?」と思いながら読めたので、面白かったし、知識も増えたと思う。 ただし、著者が、日本の教育がどうあるべきだと思っているのかは、いまいちわからない。ひたすら議論の失敗について述べることが軸になっていて、失敗した議論の結論が、次の章では正しかったことになって話が進んだりする。
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論理的思考の題材として教育を取り上げたんじゃないかってくらい ロジカルシンキングを推している。 言ってることはその通り, そういう話,見方もあるのかと新しい発見は多かった。 しかし,日本の文化的側面を考慮すれば 別に建設的議論が行われなくてもうまく機能するんじゃないかな? ま...
論理的思考の題材として教育を取り上げたんじゃないかってくらい ロジカルシンキングを推している。 言ってることはその通り, そういう話,見方もあるのかと新しい発見は多かった。 しかし,日本の文化的側面を考慮すれば 別に建設的議論が行われなくてもうまく機能するんじゃないかな? まぁ,今の問題をどこまで問題とするかだけど。 そもそもそんなに論理的に話せる人間が多かったら 日本の特殊さって成立しないような気もする。
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教育を語る際に欠かせないカギを説く【赤松正雄の読書録ブログ】 「『優秀』で『巧なり名を遂げた人』である『自分』を基準として千数百万人の子どもたち全体のことを議論している」―「教育」を議論する際に陥りがちな落とし穴だ。 今から十数年前に、著作権法改正が話題になった頃に、当時...
教育を語る際に欠かせないカギを説く【赤松正雄の読書録ブログ】 「『優秀』で『巧なり名を遂げた人』である『自分』を基準として千数百万人の子どもたち全体のことを議論している」―「教育」を議論する際に陥りがちな落とし穴だ。 今から十数年前に、著作権法改正が話題になった頃に、当時文部省の課長だった岡本薫さんと話す機会があった。きわめて優秀な官僚だったとの記憶が残っている。その彼から『教育論議を「かみ合わせる」ための35のカギ』という名の本を頂いていた。にもかかわらず本棚の片隅に放置していた。それをひょんなことから取り出して先日読んだ。またたくまに引きずり込まれた。1)目的・手段や原因・結果に関する論理的思考ができていない 2)すべての子どもたちに必要なこととそれ以外のことが区別されていない 3)みんなが同じ気持ちを共有できるはずという幻想のためにルールや契約が軽視されている―など5点に集約して、それぞれ7つの不思議な実例をあげている。一つひとつ見事なまでに当っている。外国人の目からみていかに日本の教育論議が不思議な誤りに陥っているかの実例が堪える。圧倒された。これを皆が読めば、日本の教育論議も様になるとの思いに駆られる。 早速彼の居場所を探した。文部科学省の幹部にと思いきや、今は政策研究大学院大学の教授になっておられた。私の思いをメールで伝えた。すると、日本の政治・社会の前途を憂い、もはや後輩を育てるしかないと、役所を辞めて今のところに移ったとの返事を頂いた。新書を書かれては、などと余計なことを書いたところ、既に『日本を滅ぼす教育論議』との名で書き直して出版している、と。改めてこの本も読んでみたが、不思議なことに前者の方がかなり読みやすく分かり易い。
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一読の価値あり。 賛否にかかわらず教育を他人に語る前に読んでおくと恥かきませんよー★ 感情論・感覚論で教育を語るなんて‥!!× はずかしいです。 自分も反省させられたところ、考えなおし、新たな取り入れる視点を増やしました。 みんな、冷静に考えるべき。 (ちなみにこの本が指摘し...
一読の価値あり。 賛否にかかわらず教育を他人に語る前に読んでおくと恥かきませんよー★ 感情論・感覚論で教育を語るなんて‥!!× はずかしいです。 自分も反省させられたところ、考えなおし、新たな取り入れる視点を増やしました。 みんな、冷静に考えるべき。 (ちなみにこの本が指摘してることは、右とか左とか関係ないですよ!!)
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父の書斎にあった。日本の教育はこのままでは崩壊するのではないか、と思う。それにしても文科省は不毛なことをずっとやっている。近いうちに国家がなくなるのではないかな。それならそれで結構なことです、そうなって初めて日本人は焦るのでしょう。日本人は「資源がない小国だから国際社会で生き残る...
父の書斎にあった。日本の教育はこのままでは崩壊するのではないか、と思う。それにしても文科省は不毛なことをずっとやっている。近いうちに国家がなくなるのではないかな。それならそれで結構なことです、そうなって初めて日本人は焦るのでしょう。日本人は「資源がない小国だから国際社会で生き残るためには、、」と言う自虐的なことが好き。もっと勉強しなくてはね。
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日本人同士の議論には大きな欠点がある。それは議論をしても本質からずれてしまうということだ。抽象的な議論が続き、いつまでたっても具体的な解決策が出てこない。それは精神という抽象的な物があらゆることを解決できると考えている国民性によるものでもある。気持ちを入れ替えれば問題が解決するの...
日本人同士の議論には大きな欠点がある。それは議論をしても本質からずれてしまうということだ。抽象的な議論が続き、いつまでたっても具体的な解決策が出てこない。それは精神という抽象的な物があらゆることを解決できると考えている国民性によるものでもある。気持ちを入れ替えれば問題が解決するのだと考えるのはもうやめ、そろそろ現実的に考えていかなければ、日本が抱える諸問題はいつまでたっても解決することは無いだろう。
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海外との比較がおもしろい。 そして、日本よもっとしっかりしてくれと思ってしまう。 実にもっともなことが書かれている本。 特に、教師はプロだという部分、ルールと契約の部分は大賛成。 内容盛りだくさんで頭がパンクしそう。 「現状」「原因」「目標」「手段」…やっぱ問題解決...
海外との比較がおもしろい。 そして、日本よもっとしっかりしてくれと思ってしまう。 実にもっともなことが書かれている本。 特に、教師はプロだという部分、ルールと契約の部分は大賛成。 内容盛りだくさんで頭がパンクしそう。 「現状」「原因」「目標」「手段」…やっぱ問題解決の基本はそこから。 2008年03月29日読了。
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日本においては教育に必要以上に価値が置かれ、そのためにロジカルな議論がほとんどなされていないと著者は指摘する。客観的に見てなるほどと思わされることが多々あり、これからの教育を議論する上でこのような視点が必要であることを実感した。
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