エコロジストのための経済学 の商品レビュー
著者は数理経済学が専門。環境問題をタイプ別に経済学の原理にあてはめて説明しているのは興味深い。しかし、結論は「環境問題の解決の糸口をつかむための経済学の理論は見つかっていない。」 コモンズの悲劇は、歴史的にも共同体のルールをつくることで解決を図ってきたと考えられる。広域汚染など...
著者は数理経済学が専門。環境問題をタイプ別に経済学の原理にあてはめて説明しているのは興味深い。しかし、結論は「環境問題の解決の糸口をつかむための経済学の理論は見つかっていない。」 コモンズの悲劇は、歴史的にも共同体のルールをつくることで解決を図ってきたと考えられる。広域汚染などの囚人のジレンマの問題については、罰則規定のある条約や協定が効果があるのだろう。外部不経済に対しては、課税や当事者間の交渉を事例ごとに適用していくことが有効なのだろう。 ・コモンズの悲劇は、全体の利益が最大になる段階になっても、個人のレベルでは利益が期待できる状態にあるため、全体の利益が損なわれる結果となること。その仕組みは独占企業の生産量と利益の関係と同じ。 ・広域汚染は非協力ゲームで説明することができる。その結果はナッシュ均衡に落ち着くが、汚染が広域に均等化される場合は囚人のジレンマの状況に陥ってしまう。互いが裏切りへの懲罰を行うことによって、お互いが利益を得ることができる状態に移行できる。 ・ケインズのマクロ経済学では、政府支出(財政政策)が景気対策になる。この考え方によって行われるようになった公共事業は、政治家や官僚の利権を生んだほか、私有されておらず、民間企業が着手できないという理由で、自然環境を改造する大規模な事業が進められることになった。 ・公害の外部性を解消するためには、汚染に対して税金を課す方法(ピグー税)、当事者間の交渉による方法(コースの定理)がある。税方式では役人が汚染による被害を正確に把握するインセンティブがなく、徴収した税金の使い道の問題も残る。当事者間の交渉の場合は、被害の規模をはかる費用や交渉に要する費用や時間がかかる問題がある。
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「環境経済学」を標榜しながら上っ面をなでるだけの書物が多い中、本書は環境問題と経済学をどちらもきちんと理解した上で、著者のスタンスで分析、解説を試みる。 さらにそこで満足せずに、既存の経済学を環境問題に適用することの問題点を具体的に提示し、最後には著者の思考実験として解決への糸口...
「環境経済学」を標榜しながら上っ面をなでるだけの書物が多い中、本書は環境問題と経済学をどちらもきちんと理解した上で、著者のスタンスで分析、解説を試みる。 さらにそこで満足せずに、既存の経済学を環境問題に適用することの問題点を具体的に提示し、最後には著者の思考実験として解決への糸口まで提示している。 環境と経済のトリレンマを真摯に解きほぐそうと試みた意欲的な本。 環境原理主義者にこの本を理解できるだけの知性と理性が欲しい。
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①「エコロジスト」と銘打ってはいるけれど、環境にそこまで関心がなくても人並みのそれと、経済学に対する興味があれば十分に理解することができる。「普通の市民を想定読者としている」からね。 ②この著作のオリジナリティはやはり第8章にあると言える。特に「貨幣の記憶」において「贈与」を絡ま...
①「エコロジスト」と銘打ってはいるけれど、環境にそこまで関心がなくても人並みのそれと、経済学に対する興味があれば十分に理解することができる。「普通の市民を想定読者としている」からね。 ②この著作のオリジナリティはやはり第8章にあると言える。特に「貨幣の記憶」において「贈与」を絡ませているあたり。これはまさしくストロースの「贈与の知」ではないか(小島さんと内田樹が対談すればさらに話が面白くなると思うんだけどなあ。誰か企画しないかな)。これにナッシュ均衡を絡ませ始めた途端、「おぉ・・」ともう感動で震えが止まらなかったね。自分にもっと頭があって、家族もいなくて、何より勇気があったら院でも目指したかったなあ。 ケインズ経済学への(恐らく愛しているが故の)建設的な批判、疑念及びコースの定理・コモンズの悲劇・ゲーム理論・・etc従来の経済学の系譜を縦横俯瞰しつつ、サミュエルソン、コチャラコータ、そして宇沢弘文(氏の先生らしいです)の論文、思索を元にそれらをさらに発展・応用させようという意気込みが直に伝わってきました。 氏は第1章で「要するに本書で、環境問題の主たる部分は経済問題である、ということを知っていただきたい」とクールに書いているけど、それもそうだけど、それ以上に氏が今まで考えてきた熱い思いをぶつけたい、というのがあったのではないだろうか。そういう感情が生々しく伝わってきました。エコカード含め、氏の発想があらゆる意味で今後の一大ムーブメントになることを陰ながら応援しています。さらなる発展を期待して星3つで。貨幣の本質的な機能から着想を得たエコカードの発想は本当に新鮮(ちなみに岩井克人の「貨幣論」は難しすぎてすぐに挫折)。ちょっと難しいけど。 (2006年12月05日)
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私にとっては「環境」テーマに対する、新たな視点からのアプローチで面白かったです。 実は小島先生には、遠い昔、とある予備校でお世話になりました。先生が紹介する本には、まずハズレがなかったです。だから、新しい本を手に取るたびに、「また本の紹介してないかな?」とか思ってしまうのです。
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環境問題を経済学の観点からクールに分析した本。 例えば、「環境税」を導入することによって、人間の善意や倫理に頼るより、(役人の)「儲けたい」本能を利用した方が効率が良いだろう。ということだったり、ゲーム理論を使って、環境破壊を引き起こしている張本人たちが生産量などでどういう戦...
環境問題を経済学の観点からクールに分析した本。 例えば、「環境税」を導入することによって、人間の善意や倫理に頼るより、(役人の)「儲けたい」本能を利用した方が効率が良いだろう。ということだったり、ゲーム理論を使って、環境破壊を引き起こしている張本人たちが生産量などでどういう戦略を取れば全体としてバランスが取れるかなど、環境問題を基本的な経済学の理論で解説しているところがおもしろい。 ついつい消費することは環境に悪いのでは?と思いがちだが、必ずしもそうではないらしいので、少しホッとしたと同時に、明確な答えがないだけに、余計に環境問題が難しいということを実感させられる。
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