嘘と貪欲 の商品レビュー
西欧中世期に、商業・商人観がどう変遷したかを膨大な資料に基づいて解き明かそうとする一冊。キリスト教から、利潤や徴利(利子)を得ることへの疑いと蔑視を向けられていた商業・商人が現実の経済社会で不可欠の存在となり、教会もこれを認めざるを得なくなり、内部での党派対立も絡みつつ、市民へ...
西欧中世期に、商業・商人観がどう変遷したかを膨大な資料に基づいて解き明かそうとする一冊。キリスト教から、利潤や徴利(利子)を得ることへの疑いと蔑視を向けられていた商業・商人が現実の経済社会で不可欠の存在となり、教会もこれを認めざるを得なくなり、内部での党派対立も絡みつつ、市民への教化等のために、その限界づけの理論武装に傾注する一方、貧民救済のための商業の一部取り込みなどを行うようになり、さらに商人も為替手形制度の巧みな活用して定着し、徴利(利子)を得る基盤を築いた。それによって、大商人は「完全なる商人」というプライドも有するようなっていった。その過程がよくわかった。 本書が、アダム・スミスや産業革命前の西欧の経済・商業史として、貴重な一冊であることは疑いない。他方で、本書は著作の論文集でもあるため、必ずしも本書の内容に必要か疑問に思った部分もある。とくに説教資料の概説は、それ自体興味深いものの、本書の内容を読み解くうえで不可欠のものではない。また、上記のように、史的過程の客観的な叙述に終始していることもあり、著者の評価や思想は全面に出されておらず、読んでいて物足りなさを感じた。
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[ 内容 ] 中世後期、商人への賎視が肯定へと転換していくトポスの変容を、徴利、為替、公正価格論などをめぐる逆説的な展開からたどり、中世経済思想の水脈を捉え直す。 徴利禁止から、近代的銀行の源流モンテ・ディ・ピエタの設立へといたる、壮大な商業の精神史。 [ 目次 ] 嘘と貪欲 1 スコラ学文献から(徴利禁止の克服をめざして;石から種子へ;公正価格と共通善 ほか) 2 教化史料から(托鉢修道会と新説教;ベルナルディーノ・ダ・シエナと商業・商人観;ベルナルディーノ・ダ・フェルトレとモンテ・ディ・ピエタ) 3 商人文書から(為替と徴利;「必要と有益」から「完全なる商人」へ;おわりに―近代への展望) [ 問題提起 ] [ 結論 ] [ コメント ] [ 読了した日 ]
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西欧中世の商業・商人観ということで、西欧中世の商業について詳しくなれた。 世界史ではざっとしか習わなかった部分だったので、西欧中世の商業という分野に興味を持つきっかけとなった。
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★私は職能バカの編集屋で、ガッコを出て以来、出版稼業しかやってこなかったわけなんだが、一方で同時に自分が商人(あきんど)でもあると自覚してる…というか、自覚しようと意識している。うまくいってるかどうかはわからないんだけど。 人様に良い物を提供しようとするからには、自分にもお客さ...
★私は職能バカの編集屋で、ガッコを出て以来、出版稼業しかやってこなかったわけなんだが、一方で同時に自分が商人(あきんど)でもあると自覚してる…というか、自覚しようと意識している。うまくいってるかどうかはわからないんだけど。 人様に良い物を提供しようとするからには、自分にもお客さんにも誠実でありたい。それが商人の原点じゃないかと。 少々過激な物言いになるが、低価格であることばかり要求する客も利潤ばかり追求する拝金主義者もキライだ。 嘘のない公正な取引の在り方ってのはないもんなんだろうか。無理をわかったうえで常にそう思う。 ――といったことは、何も今に始まったことじゃなく昔からみんな考え続けてきたわけだ……。 でも、永久に未決着なら永久に考え続ければいいじゃないの。世代を超え、国境も民族も越えて。それが人の倫理を衰えさせない唯一の方法なら。
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