ガンビア滞在記 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
よすぎる。アメリカの小さな町での一年間の生活を描いた小説。こういう本はありそうでない。 庄野潤三のおおくの小説は〈何も起こらない〉話と言える。これはもちろん悪い意味ではない。ただ、そういう表し方をできてしまう。〈何も起こらない〉をつまらない、意味のないと解釈する人も中にはいるのではないかと思う。しかしガンビア滞在記では〈何も起こらない〉ことが話を豊かにしているとつよく感じる。買い物をする場所、隣人との関わり、近くの大学で行われるフットボールの試合。生活の細部が生き生きとして映り、彼ら夫婦のガンビア(異国)での暮らしがすうっと心に入りこむ。 隣人のミノーとその妻・ジェーンは庄野夫妻と深く交流する。彼らとは町に住みはじめてすぐ出会い、そして庄野夫妻が日本へ帰る一週間前、コロンビアに引っ越す彼らを見送ることになった。またある章では近くの大学の教授と学生が事故で亡くなったことを取り上げる。この小説では出会いや別れ、死でさえすべて生活の中の一部として、大げさにせずに描かれている。僕が庄野の作品でもっとも好きだと思うところ、といえるかもしれない。 作者のあとがきの一部。 私は滞在記という名前をつけたが、考えてみると私たちはみなこの世の中に滞在しているわけである。自分の書くものも願わくばいつも滞在記のようなものでありたい。
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