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帝国と暗殺 の商品レビュー

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2011/08/02

アイヌ・琉球民族の制圧から、大韓帝国の併合をへて、大逆事件、明治天皇死去に至る、明治期の帝国主義的欲望を、メディアの紡ぐ「物語」を通して分析しようとした野心的著作。キーワードは、「病」と「血」と「女」です。 フーコーの身体論を踏まえつつ、病として異質化されるものを排除することによ...

アイヌ・琉球民族の制圧から、大韓帝国の併合をへて、大逆事件、明治天皇死去に至る、明治期の帝国主義的欲望を、メディアの紡ぐ「物語」を通して分析しようとした野心的著作。キーワードは、「病」と「血」と「女」です。 フーコーの身体論を踏まえつつ、病として異質化されるものを排除することによって、国民国家の身体の境界を確立しようとする過程とは、とりもなおさず、その境界の脆さを露呈せずにいないことを、同時代のメディアにあらわれた、衛生、「新しい女性」、朝鮮王宮、大逆事件、そして明治天皇の病み死にゆく身体をめぐるディスコースを通して、明らかにしようと試みる。 この種の著作にありがちなことだけど、とかく小難しい専門用語が多すぎ。それに自分の目に見えてみた構図を他人に説得力をもって示すには、もっとわかりやすい論証が必要だと思うのよ。牽強付会とまでは言わないけど、この事例一つでそこまで言えるかなあと思う部分がないわけではなかった。まあでも、そのへんも含めて面白かったですが。 特に興味深かったのは、大韓帝国皇后閔妃をめぐる日本での報道。誰かをわかりやすい悪女にしたてて叩くというのは、今でもよく見られる報道パターンですが、それでも日本人が関わった暗殺には隠しきれない居心地悪さがにじみだし、かわりに幼い皇太子をアイドルにまつりあげてマッチポンプ。あまりにも変わってなさすぎて面白い・・・。 あと、伝染病や売春にかかわり、欧米の目を卑屈なほど気にしつつ、下層階級に対する差別観まる出しの福沢諭吉先生の数々の文章もたまりません。なんでこんな人がいまだに偉人扱いなのかねえ。 本書を読んでたのはちょうど外国人献金が問題になってた頃。明治時代ほどあからさまな差別的表現がなくなっただけで、根本的問題をつたえずにプロパガンダをまきちらすマスコミの機能は、ほとんど変わってないのではなかろうか。

Posted byブクログ

2011/02/02

 閔妃暗殺、大逆事件、伊藤博文暗殺、明治天皇の死といった近代の暗殺をめぐる事件を報じた言説に見られるメディアの物語的な欲望とその綻びを、ジェンダー的な視点から批判的に検証する。現代の物語論を踏まえた文化・言説研究の名著。  本書によれば、メディアは、「アイヌ」「朝鮮」「女性」「...

 閔妃暗殺、大逆事件、伊藤博文暗殺、明治天皇の死といった近代の暗殺をめぐる事件を報じた言説に見られるメディアの物語的な欲望とその綻びを、ジェンダー的な視点から批判的に検証する。現代の物語論を踏まえた文化・言説研究の名著。  本書によれば、メディアは、「アイヌ」「朝鮮」「女性」「皇族」を語る言説において、女性ジェンダー化された主人公を持つ紋切り型の物語を紡ぐが、物語は読者を安全圏に置き、自らを多数派とする「われわれ」という読者共同体を形成させる。  しかし、「病」「血」などの紋切り型の比喩は物語定型をはみ出していく要素も孕んでいる。物語の定型は強力だが、表象された細部は物語を歪ませ、矛盾や両義性を孕ませる。そうした異和や疑問から物語を批評的にまなざすことで、細部の歪みから生じるもうひとつ別の物語の軌跡を知ることができる。(P158およびP344から言葉を拾いつつまとめ)  国民国家論としては、すが秀実『「帝国」の文学』(2001)や小森陽一の仕事に連なるのだけど、蓮實重彦『小説から遠く離れて』(1989)、四方田犬彦『貴種と転生』(1987)の物語論・物語批判を踏まえており、全体としては、渡部直己『日本近代文学と〈差別〉』(1994)が近い仕事と言えるかもしれない。  批評や理論の成果を汲みとりつつ、実証的な歴史研究としても成功した良書と言えるだろう。

Posted byブクログ