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2019/02/17

 同人誌時代を中心に、1950〜1958年に発表された作者の初期短篇アンソロジー。河出文庫のオリジナル編集とのことだが、この書き手の特質がよくあらわれた興味深いセレクションになっている。  田中の描く人物たちは、現在のことばで言えば「解離」の技法を駆使して、目をそむけたくなるよ...

 同人誌時代を中心に、1950〜1958年に発表された作者の初期短篇アンソロジー。河出文庫のオリジナル編集とのことだが、この書き手の特質がよくあらわれた興味深いセレクションになっている。  田中の描く人物たちは、現在のことばで言えば「解離」の技法を駆使して、目をそむけたくなるような苛酷な現実をやり過ごそうとする(これは、主体にとっては、自己が「演技」していると意識される)。しかし、その技法は見えざる緊張と澱のような痕跡を身体に蓄積させ、意識を脅かしつづけているから、さらにその「演技」は強められなければならない。 時折、主体にとっての「不安」となって回帰してくるその距離を含んだ反復性が、なんとも重苦しく、どんよりとした空気を作中の世界に漂わせることになる。だから、この作品集の物語は、ユーモアがあるのに笑えない。ユーモアなしに生きられない世界の重苦しさ自体を意識させてしまうからなのだろう。

Posted byブクログ