永遠の子ども の商品レビュー
『マラルメの詩のメモは、死別の悲しみが開花させる新たな時間に近づく。《しかし/自由な、子どもよ/永遠の、そして、いたるところにいる/同時に。死にゆく子どもは永遠であり、思考の悲しみが最期を予告する日々の短い空間を無限化する』―『Ⅴアナトールとレオポルディーヌ』 気付くと、「荒木...
『マラルメの詩のメモは、死別の悲しみが開花させる新たな時間に近づく。《しかし/自由な、子どもよ/永遠の、そして、いたるところにいる/同時に。死にゆく子どもは永遠であり、思考の悲しみが最期を予告する日々の短い空間を無限化する』―『Ⅴアナトールとレオポルディーヌ』 気付くと、「荒木経惟 ― つひのはてに」、「シュレーディンガーの猫を追って」から、フィリップ・フォレストを遡って読んでいる。何故、荒木経惟だったのか、その答えのぼんやりとした輪郭がうっすらと見えたような気になる。 フォレストの文章は、まるで五線紙の上に置かれた音符のよう。弦楽器の為の音楽ではなく、ピアノの為の楽曲の。その記号は不連続で、音は弦がハンマーで叩かれた瞬間から減衰してゆく。常に何かを言いかけては口を噤むように。もう一人のフィリップ、グラスの音楽のように。記号から再現される音楽から何を感じ取るとしても、記号は記号でしかない。そんな感傷を手放したような音符の連なりを読んでゆく。言いかけた言葉は問いかけとなる。誰への?自身への。短いパッセージは、抑揚を抑えた旋律のように、狭い音域を上下する。言葉の連なりは、自分自身との間で交わす連祷。辿る記憶の世界に封じ込められたいという願いと、現実に戻ろうとする意志の間で交わされる会話。 『それでも彼は記憶をたどる ― 「詩はどう?」「なにそれ?」「詩っていうのは、お話なんだけれど、それを話すと、音楽が聞こえてくる、ピアノで弾くみたいに……』―『Ⅱ闇の中の物語』 各々が九つの小章からなる九つの章(最後の章だけは小章が三つ)。それはジオメトリというより、書くことの意味を形式に委ね、自らの悲しみに溺れまいとする告解とも聞こえる。ただしそれは救いを求めるものではなく、亡くなった幼子の存在を封じ込める為のフェルマータ。しかしそれを永遠に引き延ばすことは叶わない。化石となった死はじわじわと異質なものに変容し、風化する。そのことを学者である父は既に他者の言葉の中に見い出している。 永遠の(éternel)というフランス語から、直ちに連想されるラテン語のaeternam。それはレクイエムという言葉に掛かる言葉であることは言う必要もない。しかし「永遠の」意味するものは、死の瞬間に向かって変化する。その瞬間をできるだけ遅らせ、生を終わらせまいという願いは、やがて永遠の休息(requiem aeternam)への導きに取って代わる。それをユゴーとマラルメの身に起きたことに重ねて、文字にする。それを果たして勇気と呼ぶのか、狂気と呼ぶのか、文芸評論家の父は自身の身に起きたことに判断を下さない。 『詩は、遂行された喪ではなかった。この喪を、ユゴーは終わらせたくなかった。そして、彼にとって書くことはこの拒否に形をあたえ、永続させ、目に見えるものにすることだった。忘却は卑怯だ、と彼は言うだろう。気をつけていないと日々の生活は徐々にそちらに向かっていく。歳月の流れのなか、思考は用心深くあらねばならない。詩は、暗号で記された記憶の勇気である』―『Ⅴアナトールとレオポルディーヌ』 短い最後の章には、フォーレの「イン・パラディスム」の響きが聞こえる。「et perducant te(あなたを連れてゆく)」とソプラノが歌うとき、ほんの一瞬だけ調性は揺れ、魂が肉体を離れたことが示される。フォレストの言葉も一瞬だけ感傷的な声を響かせるが、死の現実がそんなものを塗りつぶしてゆくことも同時に語る。そうすることが自分たちを正気に保つ唯一の手段だとでもいうように。 『書くことは、このささやかな儀式のひとつである。書くことによって、足元に開いた溝が閉じないことを望む。メランコリーのほかの偏執と同じだけ、それ以上でも以下でもなく書くことにはそれなりの尊さがある。とはいえ、死が非弁証法的な真実の性質を維持することが条件である。どんなレトリックにとらえられようと出来事は取り返しのつかぬものでありつづけねばならない。ページは、生者と死者のむなしい神格化が演じられる彼岸ではない』―『Ⅴアナトールとレオポルディーヌ』 ここに作家の辿り着いた境地が書き表わされている。
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フランス文学は難しい! 9章からなる構成はジオメトリが施されているそうなんだけど ジオメトリといえばTerragenのフラクタル地形としか思い浮かばないです>< さて、これほど我が子を小児ガンで失う悲しみを文学的に綴った小説はほかに見たことがない。 それをピーターパンを取り入れな...
フランス文学は難しい! 9章からなる構成はジオメトリが施されているそうなんだけど ジオメトリといえばTerragenのフラクタル地形としか思い浮かばないです>< さて、これほど我が子を小児ガンで失う悲しみを文学的に綴った小説はほかに見たことがない。 それをピーターパンを取り入れながら語るのは面白いと思った
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