荷風のリヨン の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
「ふらんす物語」などの耽美的な小説で有名な明治時代の小説家の「永井荷風」のリヨンでの足跡を追った本。 永井荷風はもともと、横浜正金銀行(現東京三菱UFJ銀行)で働いていて、日本からの主に生糸を中心とする輸出貿易決済に関する仕事をしていた。 当時、リヨンは絹織物で栄えていた。 リヨンは北にブルゴーニュがあり、南にコート・デュ・ローヌの銘酒が昔からあり、近年には北にボジョーレがあり、荷風がいた当時はパリ、マルセイユに次ぐ第3の都市で、1906年当時に人口四十七万人であったといわれる。ただしこれは、ドイツ軍に対抗するため、水増しが行われていたともいわれる。 リヨンの町には、ソーヌ川とローヌ川が流れておろ。ソーヌ川は、郊外の自然風景と重なり、ローヌ川は昔からよく氾濫していた。 また、昔は川で舟を浮かべて、洗濯を未亡人などが事業として行っていた。今では、ローヌ川では市民プールが作られている。 ソーヌ川の右岸に連なる山々は「Mont d'Or」がある。この山で、電磁気学の科学者アンペールが生まれた。アンペールは電流の単位である。 リヨンは霧のイメージがあるが、これを植え付けさせたのは荷風と、遠藤周作であるといわれている。遠藤周作はリヨンで2年半を過ごし、そのリヨンを舞台にした「白い人」で1955年に芥川賞を受賞している。 永井荷風のリヨンでの生活を探るべく、明治時代のリヨンについて、詳しく調査した本です。
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ふらんす物語の主要な舞台であるリヨンの街をつぶさに検証して、永井荷風の生活したリヨンを具体的に現実の街に当てはめ、あぶり出してみようという本。 荷風の書いた「ふらんす物語」の著述が、現在でもリヨンの案内として通用するということにも驚きますが、それ以上に著者の検証の手順の確実性や...
ふらんす物語の主要な舞台であるリヨンの街をつぶさに検証して、永井荷風の生活したリヨンを具体的に現実の街に当てはめ、あぶり出してみようという本。 荷風の書いた「ふらんす物語」の著述が、現在でもリヨンの案内として通用するということにも驚きますが、それ以上に著者の検証の手順の確実性や周到さに尊敬の気持ちが湧き起ります。戸籍や国勢調査に目を通し、新聞記事を当たり、ふらんす物語も徹底的に精読する。実際に足を使って歩く。その場所に身を置いてみる。 さすが学究。 事実として確かめられることと、荷風の創作を実に鮮やかに切り込んでみせてくれます。でも、それは作家である荷風の創作を貶めるものではなくて。荷風が作家である以上、その創作された街にさまようこともちゃんと良しとしていて。その美しさや面白さ、芳醇さはよく理解した上で、荷風のあえて描かなかった部分にも光を当てていきます。 それは、街そのものだけでなく、荷風の内面に対しても理性的に筆が及ぶので、読んでいる方は大変面白いです。ふらんす物語と本書をともに携えてリヨンを歩いたら本当に充実した街歩きが出来ると思います。
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