英雄アルキビアデスの物語(下) の商品レビュー
ペロポネソス戦争後期の立役者の一人、アルキビアデースの物語。この人物の名前は、トゥーキュディディースの戦史、及びクセノポンのギリシア史に名前が出てくる。 トゥーキュディディース(作品中何度か名前が上がるが)もクセノポンも、このような不真面目な/巫山戯た人物は好みではないらしく(...
ペロポネソス戦争後期の立役者の一人、アルキビアデースの物語。この人物の名前は、トゥーキュディディースの戦史、及びクセノポンのギリシア史に名前が出てくる。 トゥーキュディディース(作品中何度か名前が上がるが)もクセノポンも、このような不真面目な/巫山戯た人物は好みではないらしく(そりゃ、真面目な学者が好む人物ではない)、淡々とした描写の中でもあまり評価されているようには思えない。 しかし、ワルこそモテるが世の常であり、サトクリフも惚れ込んでいるのがよく分かる(この辺、塩野七生がシーザーにゾッコンなのに似ているかもしれない)。 作品はアルキビアデースに関わる人物達の語りで話が進められ、外から見た人物像でしかわからないが、その奥深くに、アルキビアデースの本質が垣間見える仕組みになっている。そして男女とも皆アルキビアデースに大なり小なり惚れ込んでいる。 ワルの危うさに語り手たちと一緒にドキドキしながら読み進められる逸品。ただし、惜しむらくはペロポネソス戦争の知識がある程度必要となる点であろうか。
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原題の「The flower of Adonis」が意味深でかっこよくて良いな。 日本だとピンと来ないか。 私も「英雄アルキビアデス」となかったら目に留まらなかったかもしれない。 アテナイがぼろぼろで戦争物の面白さはもはやあまりない。 あくまでこれは戦記でなく物語なのだ。 登場...
原題の「The flower of Adonis」が意味深でかっこよくて良いな。 日本だとピンと来ないか。 私も「英雄アルキビアデス」となかったら目に留まらなかったかもしれない。 アテナイがぼろぼろで戦争物の面白さはもはやあまりない。 あくまでこれは戦記でなく物語なのだ。 登場人物が語るアルキビアデスと過ごした時間たちが戦争を終わらせていく。 鮮やかすぎる赤の花に絡めたはじまりと終わりが、物語を強く印象づけていた。 不吉な赤と愛が沈み込んだ赤。 どちらも血を思わせるような暗い赤ながら、 戦争とは離れたところで濃い色を放つ。 戦いに生き壮絶な死を遂げると思っていた彼の 晩年の生活と最期が、穏やかに無為で彼らしくなく。 ギリシア神話の一端を見ているような読後感だった。
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歴史小説にしては臨場感があると思います。嗅覚にうったえる描写が印象的で、リアリティーが増します。 ティマンドラの勇気に満ちた愛が素敵。市民ティモティオスの語りではじまり、ティモティオスで終わったところがアテナイの生活の余韻にひたれて良かったです。
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ローズマリー・サトクリフ若かりし頃の渾身の作品。 アルキビアデスがこれほど華麗な人生を送った人物だったとは… 毀誉褒貶する矛盾の多い人生にある筋を通すため、当時の状況を推理し、カリスマ性のある特異な性格を入念に描いています。 世に名高い人物が唯一信頼出来たのは若い頃からの腹心の酔...
ローズマリー・サトクリフ若かりし頃の渾身の作品。 アルキビアデスがこれほど華麗な人生を送った人物だったとは… 毀誉褒貶する矛盾の多い人生にある筋を通すため、当時の状況を推理し、カリスマ性のある特異な性格を入念に描いています。 世に名高い人物が唯一信頼出来たのは若い頃からの腹心の酔いどれの航海長というのも泣かせます。 遊び女として登場したティマンドラは騎馬民族の出で少年のように馬を駆る颯爽とした女性。最後まで一途な愛を捧げます。 激動の時代を色々な視点から描き、参戦することもなかった穏やかな一市民の見たアテナイの衰退など、最後は万感胸に迫ります。
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