アル・カーイダと西欧 の商品レビュー
グローバル社会に蔓延する金融危機や各地で頻発する紛争は、近代(モダニティ)の綻びとも言える。その発端でもある、アメリカを首領とする資本主義社会を脅かした9.11同時多発テロに関して、歴史的・宗教的に一般論とは異なる解釈を加えた一冊。 作者は一貫して、実証主義者をはじめとする科学技...
グローバル社会に蔓延する金融危機や各地で頻発する紛争は、近代(モダニティ)の綻びとも言える。その発端でもある、アメリカを首領とする資本主義社会を脅かした9.11同時多発テロに関して、歴史的・宗教的に一般論とは異なる解釈を加えた一冊。 作者は一貫して、実証主義者をはじめとする科学技術に対する過度な信仰により、技術発展に基づく西欧の啓蒙主義が神話化され、至高の価値と誤って認識されたために、アルカーイダのような過激思想が生まれたと主張する。1920~1930年代に始まるナチズムやボルシェヴィズムは、自らを敗北者へと押しやった資本主義(近代性)に対する反動ではなく、究極なまでに追求された合理性を体現したものである点で、近代を受け継いでいたとも述べる。 世界史で得た知識とは異なる視点から考察しており、国際情勢を見る上で新たな観点は提供されている。だが作者の主張は、科学技術の神格化による啓蒙思想の普遍性の拒絶が繰り返されるのみであり、実際、実証主義と資本主義をはじめとする近代、そしてアル・カーイダとの連関はつかめなかった。また、近代の普遍的価値の拒否につながる新しい価値については言及しておらず、アボリジニを例に挙げ多様性の意義を説くのみで、問題の解決にまでは踏み込めていなかった。 正直興味のある人だけが読めば良いと思う。
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