不在の騎士 の商品レビュー
中世騎士道の時代、シャルルマーニュ麾下のフランス軍勇将のなかに、かなり風変わりな騎士がいた。その真っ白い甲冑のなかは、空洞、誰も入っていない空っぽ…。『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』とともに、空想的な“歴史”三部作の一作品である奇想天外な小説。現代への寓意的な批判を込めながら...
中世騎士道の時代、シャルルマーニュ麾下のフランス軍勇将のなかに、かなり風変わりな騎士がいた。その真っ白い甲冑のなかは、空洞、誰も入っていない空っぽ…。『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』とともに、空想的な“歴史”三部作の一作品である奇想天外な小説。現代への寓意的な批判を込めながら、破天荒な想像力と冒険的な筋立てが愉しい傑作。
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9/14 読了。 舞台はシャルルマーニュ率いる中世の仏軍。磨き上げた白銅の鎧を身に付け、冑の上には虹色の羽根飾りを差した騎士が目庇を上げると、その中は空っぽだった。不在であるがゆえに正確無比で完璧すぎる騎士アジルールフォと、彼に恋する女騎士ブラダマンテ、ブラダマンテに恋する青年ラ...
9/14 読了。 舞台はシャルルマーニュ率いる中世の仏軍。磨き上げた白銅の鎧を身に付け、冑の上には虹色の羽根飾りを差した騎士が目庇を上げると、その中は空っぽだった。不在であるがゆえに正確無比で完璧すぎる騎士アジルールフォと、彼に恋する女騎士ブラダマンテ、ブラダマンテに恋する青年ランバルド、そして人の体を持ちながら何にでもなれる下男のグルドゥルー。同じことの繰り返しで様式化した戦の中、一行は騎士としてのアイデンティティを問う旅に出る。 空っぽ騎士アジルールフォの偏屈キャラがかわいい。宴会でご飯食べないのに料理運んで来させて、肉をひたすら細かく切り分けたりパンを粉になるまで裂いたりする。民話を題材にした人形劇を見るようなコミカルさと愛嬌がありつつ、かなり強引な語り口でメタフィクショナルに終わるカルヴィーノらしい物語。
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イタリアの作家イタロ・カルヴィーノの1959年の作品です。 シャルルマーニュの時代、彼の廷臣の中に存在しないのに存在している「不在の騎士」アジルルーフォを中心に、それぞれの存在を確かなものにするために、証しを求める冒険譚です。 存在をキーワードにしていますが、小難しい話ではなく...
イタリアの作家イタロ・カルヴィーノの1959年の作品です。 シャルルマーニュの時代、彼の廷臣の中に存在しないのに存在している「不在の騎士」アジルルーフォを中心に、それぞれの存在を確かなものにするために、証しを求める冒険譚です。 存在をキーワードにしていますが、小難しい話ではなく、奇想天外な展開、ユーモアもあればエロスもあります。そして、話は意外な展開を見せます。ファンタジーとしてしっかり楽しめますよ。 原書名:IL CAVALIERE INESISTENTE(Calvino,Italo, 1923-1985 ) 著者:イタロ・カルヴィーノ(1923-1985) 訳者:米川良夫(1931-2006)
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人を「その人」たらしめているものというのは一体何なのだろうか。第三者がある人を特定の人物と認識するのは、例えば容姿だったり、声音だったり、その振る舞いだったりと、肉体的な要素が多いように思う。 一方、「自己が何者か」を認識するのに一番重要なもの。私にとって、それは記憶だ。記憶がな...
人を「その人」たらしめているものというのは一体何なのだろうか。第三者がある人を特定の人物と認識するのは、例えば容姿だったり、声音だったり、その振る舞いだったりと、肉体的な要素が多いように思う。 一方、「自己が何者か」を認識するのに一番重要なもの。私にとって、それは記憶だ。記憶がなくなってしまったら、自分が誰なのか何者なのか確かめるすべはなくなる。勿論現代科学のうえでは私が「私」であることを証明することはいくらでもできるのだろう。だがそうなった時、私自身の中では何処か信じきれないまま、もやもやした気持ちになるだろうなと思う。結局私が私である、と実感できるのは、「私」を名乗りながら生きてきた人生の記憶があるからだ。 この作品の主人公であるアジルールフォは、高潔な人柄で武術にもすぐれた、理想的な騎士だ。 だがタイトルが示す通り、彼には実体がない。 眩く輝く白い甲冑の中は空洞で、彼の存在と言えば騎士としての強固な意志のみ。それが唯一アジルールフォを彼たらしめている。 主題だけ見ると重そうだが、軽妙な筆に乗せられて終始楽しく読み進んだ。騎士物語の王道的展開をパロディにしたところも見受けられ、思わずにやりとすることもしばしば。ランバルドがブラダマンテに一目惚れするシーンや聖杯の神聖騎士団の描写は、人が悪いなあと思ったけどね。 結末まで読むと、アジルールフォの「存在」の拠り所って何だったんだろうと少し切なくなった。 重い筆致じゃないのに、読後却って、冒頭に書いたようなことをつらつらと考えてしまう。
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前に「見えない都市」を読んだのだけれど、すごくわかりにくく,それ以来敬遠してた作家。でも,面白い。もっと読みたい作家です。
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神聖騎士団の描写は最高。ほとんどモンティ・パイソンw アジルールフォとプリッシッラとの一夜もほとんどドリフ。ラストはまさかの~。テリー・ギリアムなら映画化できると思う。
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昔読んだことがあると思っていたら、それは「まっぷたつの子爵」の方でした、たぶんね。 こちらの主人公は、肉体をもたず、ただ堅固な意思の力によってのみ自らを存在せしめている騎士道の権化アジルールフォ。自身が何者かわからぬ従者グルドゥルーをしたがえて、<存在>をめぐる哲学的な寓話が展開...
昔読んだことがあると思っていたら、それは「まっぷたつの子爵」の方でした、たぶんね。 こちらの主人公は、肉体をもたず、ただ堅固な意思の力によってのみ自らを存在せしめている騎士道の権化アジルールフォ。自身が何者かわからぬ従者グルドゥルーをしたがえて、<存在>をめぐる哲学的な寓話が展開するかと思いきや、そんなこともなく、最終章の農民の言葉にはいささか肩すかしをくらいますが、楽しめる物語です。特に、色仕掛けで騎士たちを骨抜きにしてきた美女プリッシッラと、アジルールフォ殿の一夜の契りは抱腹絶倒の面白さ。そういえば騎士道の神髄はプラトニックにあるのでしたな。
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イタリアの作家、イタロ・カルヴィーノの「歴史三部作」の作品の1つ。 「鎧の中は空洞」という「存在しているのか、いないのか」という微妙な騎士が主人公アジルルーフォ。 これと対象的な存在(そして、主人公よりキャラクターとして魅力があると思う)として描かれているのが、確かに人間とし...
イタリアの作家、イタロ・カルヴィーノの「歴史三部作」の作品の1つ。 「鎧の中は空洞」という「存在しているのか、いないのか」という微妙な騎士が主人公アジルルーフォ。 これと対象的な存在(そして、主人公よりキャラクターとして魅力があると思う)として描かれているのが、確かに人間として存在しているが、自分が何かわかっていない人間、グルドゥルー。カエルを見れば自分をカエルだと思い込み、梨の木を見れば自分を梨の木だと思って梨の実を実らせ、スープを見れば自分がスープだと思って皿に入る。 この2人を柱に物語が展開すれば相当面白いのだと思うけれど、後半からストーリーが別方向に進んでしまうのが残念。(エンタテインメント作品ではないから仕方ないが)
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戦争はこの世の終わりまで続いて、誰ひとり勝ち負けもしないさ、双方いつまでもじっと向かい合っているままなのさ。一方がかければ、もう一方も何もできなくなってしまうだろうさ。もう今は僕らも、やつらの方だって、何のために闘っているのかを忘れちゃっているのさ。
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「われらが祖先」3部作の第3作目。中身が空っぽの鎧だけの騎士、アジルールフォが主人公。『狂えるオルランド』のパロディというだけのことはあり、奇想天外な筋そのものも面白い。この小説で扱われているテーマは「存在」。相変わらずカルヴィーノは、深く考えても、さらっと読み流しても有益な小説...
「われらが祖先」3部作の第3作目。中身が空っぽの鎧だけの騎士、アジルールフォが主人公。『狂えるオルランド』のパロディというだけのことはあり、奇想天外な筋そのものも面白い。この小説で扱われているテーマは「存在」。相変わらずカルヴィーノは、深く考えても、さらっと読み流しても有益な小説を書く。
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