夏の響き の商品レビュー
この本を読み終わったときに、ニュースで、「絆」という字が今年の漢字に選ばれた、というのを耳にした。人と人との繋がりを表す一文字。 個人的には、「縁」という方がしっくりくると思ったりする。同じ繋がりを表す一文字でも。 「絆」ほどしっかりしたものではない。ひょんなことで出来たり...
この本を読み終わったときに、ニュースで、「絆」という字が今年の漢字に選ばれた、というのを耳にした。人と人との繋がりを表す一文字。 個人的には、「縁」という方がしっくりくると思ったりする。同じ繋がりを表す一文字でも。 「絆」ほどしっかりしたものではない。ひょんなことで出来たり消えたりする結び付き。地縁、血縁のように一見固いように見えても、離れてしまえば失われてしまう軽さ、それでいて知らず知らずのうちに、その繋がりを背負い込んで生きていかなければならない重さも兼ね備えている。金の切れ目が縁の切れ目、という言葉があるように、そこには人間の欲目や打算も入り混じっている。 某国営放送は、あの未曾有の大災害が起こるまでは“無縁社会”なんて報道特集番組を制作していたじゃないか。袖触れ合うも多生の縁、もっともらしく「絆」なんて言葉を重々しく使うなら、災害以前と以後の繋がりを大切にする意味でも「縁」の方が相応しいではないか、今年の一文字としては。 生れた所が同じ人間が離れ離れとなり、育ちの違う人間が出会い繋がりを深めていく、そんな人生の積み重なりの「縁」を誰もが皆背負って生きている。 クライマックスの闘犬を巡る描写に息を飲む。 余りに土着的な獣たちの争い、それを祭事のように見守る人間たちの欲得に塗れた思惑。居るべき場所を失い探し、そして再びそこへと戻ってくる登場人物たち。 ひとときの「縁」は、人生の季節を鮮やかに彩っているのが印象的な物語だった。
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