誓い の商品レビュー
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心が苦しい。 読むのが辛い。 そう感じながらも、医師であるハッサン・バイエフ氏の鬼気迫る描写と筆致に引き込まれ、500ページ超のハードカバーの本書を10日ほどで読み切った。 20世紀末、ソ連崩壊に伴い独立を宣言したチェチェンに対し、ロシアが侵攻。夥しい数のチェチェン人を拘束、殺害していく中で、ロシアで医学を修め、母国で医師として働いていた著者のハッサン氏は戦火の中、チェチェンに残って医師としての責務を全うし続ける。チェチェン人であるかロシア人であるか、民間人であるか戦闘員であるかを問わずに医療を施すハッサン氏の姿勢は、まさに本書の裏表紙に書かれている「ヒポクラテスの誓い」を体現したもの。傷ついたものを癒すという職業倫理だけでは計り知れない、著者の強靭な信念と精神が、本書のあらゆるところから読み取れる。 読んでいて何よりも悲しく、辛くなったのが、ハッサン氏がチェチェンで20年前に体験したこの壮絶な現実が、20年経った今、ウクライナで恐らく繰り返されているであろう、という事実。どちらも黒海近くのロシア国境の南端近くでの出来事であり、どちらもプーチン政権が深く関与している。要は、プーチンが考え、実行してきた「かつての古き良き強いロシア」を実現するための試みは、20年近くも姿を変えていないということ。プーチンと、彼の信念を支える周囲の人々により、今も昔も多くの無辜の民が殺され、蹂躙されているのだと思うと暗澹たる気持ちになる。 著者のハッサン氏は、本著でも触れられている通り、最後には自身の命に危険が迫ってきたため、チェチェンを去っている。今は恐らく、逃亡先のアメリカで過ごしておられるのだと思われる。英語ができなかったハッサン氏は、アメリカでは医師として働く術がない、という失望を本著で綴っているが、今はどうなのだろうか。英語版Wikipediaで氏の記事を読んだが、2008年1月に一時的にチェチェンに戻り、首都グロズヌイの医療環境の調査にあたったようだが、それ以降の消息が分かる記事は見つけられなかった。 医師としての強い職業倫理と精神力を有する著者が、今もどこかで壮健であることを願ってやまない。
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「わたしは自己の能力と判断の及ぶかぎり描写の治療に力を 尽くします。わたしの治療によっていかなる人を傷つけるこ とも欺くこともいたしません。また求められても致死薬を与 えたり、そういう助言をしたりすることもいたしません。同 様に婦人にたいし堕胎の手段を教えることもいたしま...
「わたしは自己の能力と判断の及ぶかぎり描写の治療に力を 尽くします。わたしの治療によっていかなる人を傷つけるこ とも欺くこともいたしません。また求められても致死薬を与 えたり、そういう助言をしたりすることもいたしません。同 様に婦人にたいし堕胎の手段を教えることもいたしません… …以上の誓いをわたしが全うし、これを犯すことがないなら ば、すべての人びとから永く名声を博し、生活においても医 業においても豊かな実りが得られますように。もしわたしが 人の道を踏みはずし、この誓いを破ることがあるならば、そ れとは逆の報いを受けますように。」 医師としての倫理の根幹をなす「ヒポクラテスの誓い」のなか の一文である。 この「誓い」に忠実に守ったことが、彼が故郷を逃れざる得な かった原因になった。 生まれたのはチェチェン共和国グロズヌイの郊外にあるアルハン・ カラ。シベリアのクラスノヤルスク医科大学で医学を学び、形成 外科医となった。 病院勤めの傍ら、勤務時間外には美容整形外科医として腕を振るい、 一定の評判も受けていた。 ソビエト・ロシアが行ったチェチェン人に対しての差別や迫害の 歴史は、幼い頃から父から聞いていた。自身も進学などで差別的 な発言に晒されたこともある。 それでも、充実し、幸福な日々だった。チェチェン戦争が始まる までは。 戦争で一番の被害を受けるのは一般市民である。傷ついたチェチェン の人々を救う為に、劣悪な環境でも治療や手術にあたり、時には チェチェンの野戦司令官の治療に為にも呼び出される。 その一方で、何の為にこの戦争に送り込まれたのか分からないロシア 人新兵の逃走に手を貸し、戦争が激しくなればチェチェン人・ロシア 人の区別なく治療した。 それが彼の命を脅かした。医師としては当たり前のことをしただけ なのに、チェチェン過激派からもロシア軍からも命を狙われ、亡命 を余儀なくされることとなった。 こんな馬鹿げたことが現実にあるのだ。チェチェン戦争だけではない。 病院であることを示す赤十字の旗を掲げていても、そこが攻撃される ことがままある。著者であるハッサンもそれを経験している。 戦争は人間の尊厳を木っ端みじんに打ち砕き、人々の心に深い傷を 残す。ハッサンも心的外傷後ストレス障害に苦しんだことを、本書 のなかで正直に記している。 貴重な手記であると思う。ロシア政府に暗殺されたとされるアンナ・ ポリトコフスカヤもチェチェン戦争について書き残しており、日本 語訳も出版されているが、チェチェン側から書かれ、日本語訳が 出ている作品は本書が唯一であろう。 クリミア戦争にはフローレンス・ナイチンゲールがいた。そして、 チェチェン戦争には傷ついたすべての人を救いたいとの信念と、 「ヒポクラテスの誓い」を守り抜いたハッサン・バイエフがいた。 ナイチンゲールは「近代看護教育の母」として称えられるが、 ハッサンは未だ故郷であるチェチェンへ帰国できていない。 いつか、命の危険がなくなり、彼が再び故郷の土を踏むこと が出来る日が来るのだろうか。 尚、亡くなった米原万里はハッサンを「チェチェンのブラック・ ジャック」と呼んでいたらしい。
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チェチェンに生まれ死線をくぐった医者の物語であり、 ロシアによるチェチェン侵攻の記録であり、 チェチェンの文化ルポでもあり、 メッカ巡礼記録でもある。 古来より、様々な切り口を持つことは傑作の条件とされているが、 この作品は紛れも無い傑作だと思う。
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本書は、チェチェンに生まれ育ち、戦火の中で自らの命を危険にさらして、すべての傷ついた人々を治療し続けた医師の自伝である。世界で最も過酷な戦乱の中にあるチェチェンで、人間の尊厳のために命を賭けた著者の勇気(その功績に、米人権擁護団体H.R.W.は、「ヒューマンライツ・ウォッチ賞」を...
本書は、チェチェンに生まれ育ち、戦火の中で自らの命を危険にさらして、すべての傷ついた人々を治療し続けた医師の自伝である。世界で最も過酷な戦乱の中にあるチェチェンで、人間の尊厳のために命を賭けた著者の勇気(その功績に、米人権擁護団体H.R.W.は、「ヒューマンライツ・ウォッチ賞」を授与)は、読む者の魂を揺さぶらずにはおかない。
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本書は、チェチェンに生まれ育ち、 戦火の中で自らの命を危険にさらして、 すべての傷ついた人々を治療し続けた医師の自伝である。 世界で最も過酷な戦乱の中にあるチェチェンで、 人間の尊厳のために命を賭けた著者の勇気は、 読む者の魂を揺さぶらずにはおかない。 その功績に、米人権擁護団...
本書は、チェチェンに生まれ育ち、 戦火の中で自らの命を危険にさらして、 すべての傷ついた人々を治療し続けた医師の自伝である。 世界で最も過酷な戦乱の中にあるチェチェンで、 人間の尊厳のために命を賭けた著者の勇気は、 読む者の魂を揺さぶらずにはおかない。 その功績に、米人権擁護団体H.R.W.は、 「ヒューマンライツ・ウォッチ賞」を授与。
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戦争というものがいかに残虐かがいやというほど思い知らされて、途中で読むのが辛くなりました。でも、経験がないから、知らないから読んだ方がいい一冊。彼のように運良く亡命できなかった人々のことを思うといたたまれません。
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一時期 話題の本だったんで 読まれた人も多いと思います 結局 自分は 日本にいるから こういう 世界のことは どんなに知りたいと思っても 理解はできないと思う
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